70年以上も続く歯科医院の3代目が語る
歯医者の家に生まれ、歯医者になるということ

額賀英之 さん(35)
 職業:歯科医
出身地:函館
現住所:函館
 札幌→函館→千葉→ニュージーランド→函館
 

 
 
 
西部地区で昭和19年から続く歯科医院で、副院長を務める額賀英之さん。ラ・サール高校、東京歯科大学とエリート街道を突き進む傍には、常にラグビーがあったといいます。歯科医でありながら、現役のラガーマンという異色の経歴を持つ額賀さんに、歯科大の授業内容や雇用形態など、知られざる歯科医の実態をはじめ、ご自身が直面した函館の待機児童問題や、地域の歯医者として暮らしていく上での今後の展望などを伺いました。

 
取材・文章:阿部 光平、撮影:妹尾 佳、イラスト:阿部 麻美 公開日:2016年4月22日

 
 

 
 
 
 
 
 

歯科医を休業して、ラグビーの本場・ニュージーランドへ

 
 

 
━━東京の街の印象はいかがでしたか?
額賀:東京歯科大学っていっても、学校は千葉だったんですよ。幕張の方なんですけど。人ごみとか苦手なので、環境的には良かったです。
 
━━なるほど。大学の方はいかがでしたか? 歯科大って、けっこう特殊な環境なのかなと思うんですけど。
額賀:確かに、普通の大学とはちょっと違うかもしれませんね。うちの大学は、歯学部しかないんですけど、単位制ではなくて、カリキュラムがしっかり組まれているんですよ。みんなが決まった教科を受けるという形式なので、大学というよりは、高校の延長みたいな感じでしたね。
1年生の時は教養課程っていって、数学とか英語とかを勉強してました。あと語学は、ラテン語があったりとかドイツ語があったりとかですね。
 
━━そっか。カルテってドイツ語で書くんですもんね。
額賀:それは昔の話で、今は普通に日本語で書きます。おじいちゃん先生のところとかに行くと、まだドイツ語で書かれてる方とかもいますけど。僕らの世代で、外国語を使っている人はほとんどいないと思います。
 
━━そうなんですね。知らなかった。実際に、歯を削ったりという授業はどのようにして行われるんですか?
額賀:2年生の後半くらいになると、医科の授業が始まってくるんですよ。まずは、解剖学から始まって、骨学、筋学、内臓学といった勉強をしていきます。歯学部でも、一応、医学全般の勉強はするんですよね。
それを踏まえた上で、3年生くらいから歯に特化した、それこそ削ったり、穴を埋めたりという授業が入ってきます。
 
━━最初は、模型みたいなものを使ってやるんですよね?
額賀:最初は流石に模型ですね(笑)。樹脂で作った歯型で、それを削ったりして練習します。
 
━━あの、すごく単純な質問で申し訳ないんですけど、歯医者さんになる時って、就活とかするんですか?
額賀:僕らが大学を卒業する年から研修医制度ってのができて、仕事に就く前に大学とか研修施設で、1年間の研修が義務付けられたんですよね。医大には昔からあるシステムなんですけど、歯科大も同じようになって。
なので、最初は研修をします。その間も、患者さんの治療はするんですけどね。本格的に仕事に就くのはそれからで、歯科医院の募集を見つけたり、大学の先輩の繋がりで仕事を探したりする感じですね。東京なんかだと、歯科医院が多いので、バイトとして働くこともあります。
 
━━そんな中、額賀さんはどういう進路に進んだのでしょう?
額賀:僕は1年で歯科を辞めて
 
━━えっ! 辞めたんですか?
額賀:辞めたっていうよりかは、研修が終わった後で、ラグビーがやりたくてニュージーランドに行ったんです。

 
 
 

━━そもそも、大学に入ってからもラグビーは続けていたんですか?
額賀:ずっとやってました。一般の大学リーグとは別なんですけど、医学部と、歯学部と、薬学部のリーグっていうのがあるんですよ。
うちの大学は、一番下の5部リーグだったんですけど、卒業する時には1部にまで上り詰めたんですよね。
 
━━すごい! それだけラグビーに情熱を注いでいたってことですよね?
額賀:やっぱり、やるからには勝ちたいじゃないですか。だから一生懸命やってたんですけど、最初はちょっとチーム内で浮いてましたね。今でも、先輩たちから言われたりするんですけど。
 
━━浮いていたというのは、その、勝利に対してそれほど貪欲ではないチームで、ひとり気を吐いていたという感じだったんですか?
額賀:そうですね。周りもみんな頑張ろうっていう気持ちはあったと思うんですけど、それよりも気持ちが強かったというか。多分、後輩とかは嫌だったんじゃないかなと思いますけど(笑)。
 
━━進路を歯科大に決めてからも、ラグビーに対する情熱が陰ることはなかったんですね。それで、卒業後はラグビーの本場であるニュージーランドへ行こうと。それって、プロを目指して単身渡航といった趣旨だったんですか?
額賀:いや、そこまでは考えてなかったですね。いずれ、函館には帰るつもりだったので。
歯医者としてやっていくのに、手の怪我とか恐いじゃないですか。なので、しっかり働く前に本場でラグビーをやりたいというのが一番の目的でした。これでラグビーに一区切りつけようと思って、3ヶ月という期限付きで行ったんです。
 
━━どうでしたか、本場のラグビーは?
額賀:僕が行ったのは、オークランドから車で5時間くらいの場所にあるタウポっていう小さな田舎町だったんですけど、本当に田舎すぎて、飛行機を降りる前に帰りたくなりましたね(笑)。とんでもないところ来ちゃったなと思って。
 
━━そんな田舎町にも、ラグビーは根付いているんですか?
額賀:ニュージーランドでラグビーが根付いていない町はないんじゃないですかね。
 
━━本場のラグビーのレベルはいかがでした?
額賀:田舎の2軍だったので、試合には出してもらえてました。1軍に行ったこともあったんですけど、言葉が喋れなくてダメでしたね。
 
━━そっか。ラグビーって、その場で作戦を決めたりするから、言葉が通じないと難しいんですね。それでも、3ヶ月間みっちり本場でプレーして、ラグビーに対する想いは完全燃焼したと。
額賀:いやぁ、それでまた火がついちゃって(笑)。帰国してから、東京歯科大学の大学院に入って、そこに4年間通いながら、ラグビーは続けていました。
 
━━なかなか燃え尽きませんねー(笑)。
額賀:結局、大学院を出てからも社会人チームに入って、働きながらもラグビーはやってましたね(笑)。
 

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