70年以上も続く歯科医院の3代目が語る
歯医者の家に生まれ、歯医者になるということ

額賀英之 さん(35)
 職業:歯科医
出身地:函館
現住所:函館
 札幌→函館→千葉→ニュージーランド→函館
 

 
 
 
西部地区で昭和19年から続く歯科医院で、副院長を務める額賀英之さん。ラ・サール高校、東京歯科大学とエリート街道を突き進む傍には、常にラグビーがあったといいます。歯科医でありながら、現役のラガーマンという異色の経歴を持つ額賀さんに、歯科大の授業内容や雇用形態など、知られざる歯科医の実態をはじめ、ご自身が直面した函館の待機児童問題や、地域の歯医者として暮らしていく上での今後の展望などを伺いました。

 
取材・文章:阿部 光平、撮影:妹尾 佳、イラスト:阿部 麻美 公開日:2016年4月22日

 
 

 
 
 
 
 
 

函館で直面した待機児童問題と、歯科医院の3代目として思い描く今後の暮らし

 
 

 
━━額賀さんが函館に戻ってきたのって、いつだったんですか?
額賀:2014年の3月です。
 
━━帰るのを決めたのは、どのようなタイミングだったのでしょうか?
額賀:もう、タイムリミットがきたって感じですね(笑)。いつかは帰るつもりだったんですけど、具体的なタイミングまでは決めてなかったんですよ。だけど、親からは「いつ帰ってくるんだ?」って言われてて(笑)。
 
━━それはそうですよね。家を継ぐってことで、歯科大に行ってるわけですからね(笑)。
額賀:それでも、ラグビーをやりたいから帰るのを先延ばしにしてたんですけど、3年前に親が医院を改築したんですよ。そういうプレッシャーもありました(笑)。
 
━━なるほど! 医院もきれいになって、最新機器も揃い、あとはもう息子を待つばかりの状態だと(笑)。そうなったらもう先延ばしにはできませんよね(笑)。
額賀:はい(笑)。
 
━━実際、15、6年ぶりに戻ってきた函館の印象はいかがですか?
額賀:毎年1回くらいは帰省していたので、特に大きな変化は感じないですけど、いざ住んでみると、好きな街とはいえ、少し物足りなさもありますね。
 
━━その物足りなさっていうのは、何と比較してですか? 〝昔〟と比べてなのか、〝関東〟と比べてなのか。
額賀:両方じゃないですかね。子どもの頃って部活に専念していたので、遊びとかに多くを求めないじゃないですか。だけど今は、結婚して、子どもも生まれて、生活のしかたが変わったし、別の街での暮らしも知ったので、函館に物足りなさを感じるのは事実です。
あとは、友達に関しても、ラ・サールって市外から来てる人が多かったので、高校の知り合いで函館に残ってる人もほとんどいないんですよね。小中の友達も、それぞれ家庭を持ったりすると、近くにいてもなかなか会えなかったりしますし。向こうにいた時は、仕事終わりに友達と飲みに行ったりとかもあったけど、帰って来てからは、そういうのもないですね。
ただまぁ、落ち着きを求めて帰って来たという側面もあるので、物足りなさはあっても、ストレスとかはありません。

 
 
 

━━先ほど、結婚のお話がありましたが、奥さんはどこ出身の方なんですか?
額賀:茨城です。3年前に結婚して、一緒に帰ってきた感じですね。
 
━━奥さんを知らない土地に連れてくることに対して、不安や苦労はありましたか?
額賀:将来的に函館に帰るということは、付き合い始める頃から話してたんですけど、いざ生活の基盤を移すとなると、僕の方が不安でしたね。出身は茨城なんですけど、大学も東京だったし、「都会の子が、こんな田舎にきて大丈夫なんだろうか?」っていう不安はすごくありました。
 
━━実際に来てみてから、奥さんから不満の声などは?
額賀:僕には何も言ってないですね(笑)。本当はあるのかもしれないけど。唯一あるとすれば、寒いってことくらいですかね。暑いのが好きみたいで(笑)。
 
━━お子さんもいらっしゃるとのことですが、子育てをする環境としての函館はいかがですか?
額賀:こっちに戻ってきてから生まれたので、他との比較はできないんですけど、子どもを連れて遊びに行ける場所は少ないですね。月に一度は、仕事で東京に行くんですけど、子連れで遊んでいる家族とかを見ると羨ましいなと思います。
その反面、子どもが人混みの中で歩いているのとかを見ると、かわいそうだなとも思いますよね。結局は、どちらにしろ無いものねだりになっちゃうんですけど。
 
━━東京だと待機児童などが問題視されていますが、そういう面での苦労とは無縁ですか?
額賀:函館では待機児童ゼロだっていう話を聞いてたんですけど、実際にはそんなこともないと思います。
うちの子は、今年の4月から保育園に入ったんですけど、去年は入れなくて、結局、一時保育ってかたちで週一回しか預けられなかったんですよ。年度の頭からではなかったんですけど、入れたいけど入れないって時点で、それは待機児童なんじゃないかなと。
 
━━どういう理由で入れなかったんですか? 定員オーバーってことですか?
額賀:定員ってことですね。僕の同級生でも、ゼロ歳児保育のクラスで預けられなかったという人がいました。
 
━━実際、子どもは多いんですか?
額賀:そんなには多くはないと思いますよ。どちらかというと、保育所が少ないんだと思います。この辺にも、大谷幼稚園ってのがあったんですけど、統合して、移転しちゃったみたいで。
 
━━少ない保育所に子どもが集中しちゃうから、結果的に定員オーバーになると。
額賀:たぶん、そういうことなんじゃないですかね。それでも東京よりかはマシだと思いますけど。
 
━━では最後に、今後、函館で暮らしていく上での展望などを聞かせてください。
額賀:展望かぁー。これも〝歯医者あるある〟なんですけど、歯医者って「3代目で潰れる」とかって言われるんですよ(笑)。だから、そうはならないように、しっかりした診療ができる体系を作っていきたいですね。地域密着型っていったら変ですけど、都会にある歯科医院みたいに、あまり派手にやりたいとは思ってません。地域医療に貢献できればいいなと。
あとは、結局、去年の秋から社会人チームでラグビーも再開しちゃったので、それも続けていきたいですね(笑)。
 
━━ちなみにお子さんって、男の子ですか? 女の子ですか?
額賀:男の子です。
 
━━ラグビーをやらせたいって気持ちとかは?
額賀:それは、ないです(笑)。僕、すっごい怪我してきたんで。もし、やりたいって言ったらやらせますけど、やっぱラグビーってやる気がない人がやるスポーツではないですからね。無理やりやらせるっていうことはないと思います。
 
━━4代目として額賀歯科医院を継いでほしいという気持ちは?
額賀:それもありません。もちろん、やりたいって言うなら反対はしませんが、僕からやりなさいとは言わないですね。うちの父親も、そういう教育方針だったので、子どもが進む道は自由に決めさせたいなと思っています。
でも、できれば、将来は函館に戻ってきてほしいとは思いますね。僕は、もう函館を離れる気はないんで。
 
━━それはつまり、一度は函館を出てみてほしいということですか?
額賀:一度は出るべきだと思います、絶対に。ずーっと函館にいるよりも、他の世界も見た方がいいと思いますね。いろんなモノ見た上で戻ってくるのが、一番いいんじゃないですかね。父親としては、今はそう思っています。
 

MY FAVORITE SPOT

 
西部地区の街並み
 「 この辺りの街並みが好きで戻ってきたので。特に、十字街の電停から水道局にかけての景色とかが好きですね。お酒を飲んで帰ってきて、少し手前でタクシー止めてもらって、歩いて帰るのが楽しかったりします。」
 
  根崎のグラウンド

「 小さい頃からホームグラウンドだったので、ここでラグビーをするのは未だに心地いいですね。芝もきれいだし。今所属している上磯ラガーっていう社会人チームでも、ここで試合をやったりしています。」

 
奥芝商店のスープカレー

もともとカレーは好きだったんですけど、帰ってきてからはスープカレーにハマってます。よく行くのは奥芝ってお店なんですけど、角煮が入ったカレーが美味しいんですよ。」