旦那の故郷へ前向きな移住
慣れない街で暮らし、そして母になるということ

蒲生由紀子 さん(31)
 職業:ハットリメイク
出身地:青森
現住所:函館
 青森→東京→函館
 

 
 
 青森県にある人口約2000人の小さな村に生まれ、大学進学を機に東京へ。そこで出会った函館出身の彼と結婚し、現在は函館で暮らす蒲生由紀子さん。2015年5月には第一子を出産し、環境も状況もあらゆる面で新しい生活が始まっています。函館にやってきてまだ一年にも満たない蒲生さんが、慣れない土地での苦労や発見、そして旦那さんとの馴れ初めなどを語ってくれました。

 
 
取材・文章:阿部 光平、撮影:妹尾 佳、イラスト:阿部 麻美 公開日:2015年6月18日

 
 

 
 
 
 
 
 

東日本大震災、長期海外旅行、結婚、そして函館へ

 
 

 
━━さきほどの話で、ジャマイカン・スカに出会わなければ、仕事だけでなく旦那さんとも会っていなかったかもしれないとおっしゃってましたが、旦那さんとは、どのように出会ったのでしょうか?
蒲生:私が働いていたお店に、営業とか配達で来てたんですよ。洋服のお直し屋さんとして。

━━なるほど。つまり、イギリスでジャマイカン・スカを聞いて、Or Gloryで働いていなければ、彼とは出会っていなかったということですね。それは確かに、人生におけるとても重要な出会いですね。そこから結婚まではトントン拍子で?
蒲生:いや、かなり紆余曲折ありましたよ(笑)。当時、私は大きな失恋をしたばかりで、かなり落ち込んでいたんです。彼とは2人で飲みに行ったりするようにもなったんですが、まー、まだまだ元カレのことを引きずってて(笑)。でも、何回も会っているうちに、ある時「もう付き合ってもいいかな!」って思ったんですよねぇ(笑)。

━━女心を変えさせた彼の粘り勝ちですね(笑)。そこから結婚にいたるまでは、どのような日々を過ごしていたのでしょう?
蒲生:毎日のように飲み歩いてましたね(笑)。そのうちに同棲するようになって、直後に震災が起こりました。

━━3・11ですね。東京でもかなり大きな揺れがありました。当時、彼とはどんな話をしていましたか?
蒲生:交通網も麻痺して、買い占めとかも起こっている中で、「とりあえず、一緒に住んでてよかった」と思いました。
彼は出会った頃から「いつかは函館で自分の店をやりたい」と話していて、震災を境に移住を真剣に考えるようになりました。
それと同時に、今のうちに長期旅行に行こうという話になったんです。函館に帰って、仕事が始まったら、そんなに長い旅行にはいけないだろうということで。それで、2人でお金を貯めて、お世話になったOr Gloryも辞め、中南米をメインに半年ほどの旅行に出かけました。

━━旅の中で、何か印象的な出来事はありましたか?
蒲生:色々ありましたね。コロンビアでiPhoneをスられたとか、彼がネズミの丸揚げを食べて強烈な腹痛に襲われたとか、モロッコの宿でケンカしたとか…(笑)。で、帰国の前日にプロポーズを受けたんです。

━━それは、なかなか粋な計らいですね! 答えはもちろん…?
蒲生:「よろしくお願いします」と(笑)。それから1年間は、函館への移住に向けて、また2人でお金を貯めました。

━━旦那さんは、結婚する前から「いつかは函館で自分の店をやる」という目標を語ってたということですが、蒲生さん自身は、函館についてどのような印象を持っていましたか?
蒲生:小さい頃に何度か旅行で行ったことがあって、幼心に「青森から近いのに、すごい観光地だなぁ」と思ってました。活気があるし、楽しい街という印象です。

━━特に覚えている場所とかはありますか?
蒲生:スパビーチですね!

━━スパビーチ! 懐かしいっ(笑)。たしか、今はプールはなくなって、温泉施設だけになったような?
蒲生:そうなんですか? ショック…。

━━僕も今、久しぶりにその名前を思い出しました。楽しかったですよね、飛び込み台とかあって。それだけ函館に好印象を持たれていたということは、移住することにも抵抗はありませんでした?
蒲生:そうですね。函館にはポジティブなイメージがあったし、東京も10年くらい住んでいて、そろそろ他の場所で暮らしてみたいという気持ちもありました。

━━生まれ故郷である青森に戻りたいという願望はありましたか?
蒲生:あまりなかったですね。青森は好きだけど、村は不便だし、青森市内には3年しか住んでなかったので、そこまで思い入れもありませんでした。今は誰も住んでいないんですけど、村には生家が残っていて、今でも年に一度くらいは行ってます。たまに帰ると「いいなぁ」とも思うんですが、1週間くらいいると「ここで暮らすのは大変だなぁ」って気持ちになります。
そういう意味でも、函館は規模も環境も、ちょうどいいなと感じています。

 
 
 

 

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