いつかは戻るつもりで離れた函館
家業を引き継ぐという選択に至るまでの8年間

蒲生寛之 さん(31)
 職業:不動産業
出身地:函館
現住所:函館
 函館→オーストラリア→東京→函館
 

 
 
 20歳で函館を出て、ワーキングホリデービザでオーストラリアへ。その後、6年半の東京生活を経て、函館に戻ってきたのが29歳の時。現在、家業である不動産会社に勤務し、地元で妻と娘の3人暮らしをする蒲生さん。函館、オーストラリア、東京と3つの地域に移り住みながら歩んできたこれまでの人生と、地元に根を下ろして暮らすと決めた今後の人生プランについて、お話を伺いました。

 
取材・文章:阿部 光平、撮影:妹尾 佳、イラスト:阿部 麻美 公開日:2015年8月18日

 
 

 
 
 
 
 
 

空き部屋に新しい価値を与えるリノベーションプロジェクトと函館移住計画

 
 

 
━━まずは、現在のお仕事や生活についてお聞かせください。
蒲生:今は函館の青柳町で妻と娘と3人で暮らしています。仕事は、家業でもある『蒲生商事』という会社に勤めていて、不動産売買や、自社で所有している賃貸物件の管理等を行っています。
 
━━家業ということですが、蒲生さんは何代目に当たるのでしょうか?
蒲生:会社を立ち上げたのは祖父で、僕が後を継ぐことになれば3代目ですね。
 
━━いつ頃から今の仕事を始めたのでしょうか? また、やりがいを感じている部分なども教えてください。
蒲生:函館に帰ってきたのが2013年、自分が30歳になる年でした。最初は『ライフ企画』というグループ会社に勤務していたのですが、自社物件の管理を重点的に行うために移動しました。
そこで新たに始めたのが、築年数が古く、長期間空室になっている物件をリノベーションして貸し出そうというプロジェクトです。それも単に内装をきれいにするだけでなく、インテリア雑誌に出てくるような洗練された空間にすることで、新しい価値を見出そうというテーマを掲げて始めました。そのために、市内のアンティークショップと手を組んで、内装を一新。そこにアンティークショップの家具や雑貨を並べて、オープンルームを開催したんです。
 
━━少子高齢化による空き家の増加は、函館に限らず全国的な問題になってますよね。単にきれいにするだけでなく、まったく新しい空間にすることで付加価値をつけると。実際に、オープンルームを開催した反響はどうでしたか?
蒲生:正直いって、最初は自信がなかったんです。というのも、僕の知る限り、函館ではそういった前例がなかったので。宣伝広告費をあまりかけられなかったこともあって、大きな期待はしていませんでした。だけど、蓋を開けてみると、たくさんのお客さんが足を運んでくれたんです。SNS等で情報が拡散されて、予想以上に多くの方へ情報が届きました。
通常の入居者募集は、店舗やネットに情報を掲載して初めて人の目に触れるのですが、この時はオープンルームに来てくれた方がそのまま契約をしてくれました。フードスタイリストとして活躍する方で、料理教室のできるアトリエとして利用したいということでした。僕らとしても、そのような使い方をしてもらえるのは嬉しくて、リノベーションプロジェクトは今後とも続けていこうと思っています。
 
━━他にも何か新しい試みなどは予定していますか?
蒲生:今、進行中のプロジェクトで『函館移住計画』というのがあります。西部地区に住む建築家やデザイナーと一緒に『箱バル不動産』というチームを立ち上げ、古い空き家で移住体験をしてもらうというプロジェクトです。
西部地区では古い建物の取り壊しが進行していて、それをどうにかしたいなと思ったのが
 
━━そのプロジェクトは、どういった経緯で始められたのでしょう? 具体的な内容も教えてください。
蒲生:西部地区には昔ながらの街並みが残っているんですけど、同時に古い建物の取り壊しも進行しているんです。せっかく素敵な雰囲気の家なのに、入居者がいないことで取り壊されてしまうのはもったいないなと思っていて。もし有効活用できれば、街に人を呼び込むきっかけになるのではないかという想いで始めました。
具体的には〝海街暮らし〟、〝路地暮らし〟、〝坂道暮らし〟というテーマで3つの物件を用意し、そこで1週間の移住体験をしてもらうというものです。SNSなどを使って、函館への移住に興味を持たれている方を募集したところ、たくさんの応募をいただいて、9月3日から3組の方にお越しいただくことになりました。1週間という限られた期間ですが、実際に住んでもらうことで、函館の良さを体感してもらえればなぁと思っています。

 
 
 

 

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