いくつもの移住と転職の先に辿り着いた
"自分の店を持つ"という大切な夢

鈴木愛さん(37)
 職業:焼き菓子店オーナー
出身地:恵山
現住所:函館
恵山→函館→札幌→青森→函館

 
函館の元町で焼き菓子店『ホタル』を経営する鈴木愛さん。保育園の先生やカフェスタッフなど、各地で様々な仕事をしていく中で、「失敗してもいいから、人生で一度は自分のお店を持ちたい」との想いが強くなり35歳で一念発起。念願だった自分のお店をオープンさせました。昨年は出産も経験し〝豊かさ〟に対して、より真摯に向き合うようになったという鈴木さんに、札幌や青森での生活や、函館の今について語っていただきました。


取材・文章:阿部 光平、撮影:妹尾 佳、イラスト:阿部 麻美 公開日:2015年7月30日

 
 

 
 
 
 

 
景観の変容が物語る人々の需要の移り変わり
 

━━実際にお店をオープンするまでにはどういった経緯があったのでしょう? 元町を選んだ理由などもあれば教えて下さい。
鈴木: 古着屋さんをやっていた頃にお客さんとして来てくれた方で、当時は東京に住んでいたんですけど「いつか函館で古着屋をやります」って人がいたんですよ。奥さんが函館の人だったので。その人が最初、大門でPOTOSというお店をオープンさせて、その後、元町にLIKESという古着屋さんを作ったんです。私は、お客さんとしてそこに通っていて、店の人とも仲良くさせてもらってたんですけど、ある時、そのご夫婦が石狩の方に引っ越すことになったんですよね。
ちょうどその頃、「私もいつか自分のお店持ちたいなぁ」なんて話をしてたら、そのご夫婦が「本当にやりなよ!」って背中を押してくれたんです。しかも、「自分たちは引っ越すから、この場所でやったら?」とまで言ってくれて。元町は昔から好きで、当時から「大人になったらここに住みたいなぁ」と思ってたし、お店を出すならここがいいなという気持ちもありました。
付き合っていた彼氏とも結婚の話が出ていた頃だったので、それを機にお店を始めよう決めました。「失敗してもいいから人生で一度は自分のお店を持とう」という気持ちでしたね。実現させなきゃ人生終われないなぁと。

━━お話を聞いてて思ったんですけど、「保育園の先生になりたい」とか「元町に住みたい」とか「自分のお店を持ちたい」とか、やりたいと思っていたことがことごとく実現してますよね。
鈴木: 確かに! 言われてみたらそうですね。目標に向かって死に物狂いで努力しているという感じでもないんですけどね。ただただ人やタイミングに恵まれているんだと思います。

━━運も実力のうちですからね。では、約5年ぶりに函館へ戻ってきて、何か変化は感じる場面はありましたか?
鈴木: あんなにたくさんあった古着屋がなくなっていたのが印象的でした。ブームが去ったんだなと。人の多さや活気については、特に大きな変化は感じませんでしたね。青森とも大差がなかったですし。

━━青森にはあったけど、函館にないなと感じるものはありますか?
鈴木: 昔ながらの良い喫茶店ですかね。青森から帰ってきてから函館の喫茶店巡りをしていたんですけど、あまりおいしいお店に出会えませんでした。青森には本当に美味しくて、雰囲気も抜群という古き良き喫茶店があるんですよね。
 
 

 

━━反対に青森にはなかったけど、函館にはあると思うものとかはあります?
鈴木: スープカレー屋さんですかね。食べ物ばかりで申し訳ないですけど(笑)。あとは、西部地区の雰囲気。異国情緒というか、そういった雰囲気が感じられる場所は青森にはありませんでした。

━━なるほど。総合的には今の函館に満足していますか?
鈴木: 住みやすいし、食べ物も美味しくていいんですけど、物足りなさもありますね。例えば、金森倉庫の中とかは「どうにかしてください」と思います。昔は素敵なお店がいっぱいあったのに、今は「なんだかなぁ」って感じがして。他の街から友達が遊びに来ても連れて行きたいと思うほど魅力もないし、何より函館市民が行かない場所になってるのはもったいないなと。雰囲気はいいのに、面白くないんですよね。
駅前の景観も昔の方がずっとよかったと思います。今は、どこにでもある普通の地方都市の駅って感じがして、味気ないですね。

━━街の景観というのは、住人の需要を示している部分もあると思うんですよね。景観が変わっていくということは、人々の需要も変わっているということなのかなと。昔は路面に服屋さんとかが入っていて、路地裏にいい感じの居酒屋があるという感じでしたけど、今は表側にパチンコ屋や居酒屋チェーンが入り、服屋さんとかはひっそりと路地裏に佇んでいるという感じがします。ファッションやカルチャーよりも、お酒や娯楽に楽しみを見出す人が増えているのかなって気はしますね。
鈴木: 洋服もCDもインターネットで買える時代になったっていうのもあるんでしょうね。うちのお店も、よく来てくれるのはどちらかといえば年齢層が上の方が多いです。元町周辺のカフェとかが話題になったときには、若い子がドッときたんですけど、それっきりってお客さんがほとんどでした。

━━確かに買い物に対する世代観というのもあるのかもしれませんね。では、最後にこれからの暮らしの展望を教えてください。
鈴木: 春夏秋冬をちゃんと意識して生活できる人でありたいなと思っています。例えば春になったらちゃんと衣替えをして、春らしい服をきて、春においしいものを食べるという。そういう暮らしに〝豊かさ〟を感じます。お店では焼き菓子の他に、雑貨なども少し置いてあるんですけど、季節感は常に意識していますね。

━━東京とかと比べると、函館って四季がはっきりしてますからね。
鈴木: そうですね。春になったら桜が咲くし、夏は海で遊べる、秋には紅葉があって、冬は一面雪景色ですし。そういう移り変わりを大切にしながら、お店も自分の生活も楽しんでいきたいと思っています。


MY FAVORITE SPOT

 
函館蔦屋書店 

小さい頃から見てきた景色です。登るというよりは眺めるのがメインですが、いつ見てもいい景色だなと感じます。

 
 
 
やきとり家族 

「電車道路沿いにある居酒屋。全部のメニューが美味しいし、おじさんとおばさんの雰囲気がとてもいいお店です。」

 
Cafe D'ici
「ロープウェイ乗り場の近くにある素敵なカフェです。お店がとても綺麗で、コーヒーやケーキも絶品です!」