編集者という仕事に憧れ
「もう函館には帰らない」という覚悟で東京へ

木村衣里さん(26)
 職業:WEB編集者
出身地:函館(久根別)
現住所:東京
久根別→函館→札幌→東京

 
東京のWEB編集プロダクションで働く木村衣里さん。札幌で生命保険の営業職をしていた時期に〝編集者〟という仕事と出会い、自らも転職を決意。元町にある実家のパン屋さん(ぼんぱん)で2年間の手伝いを経て、現在は東京でWEB編集者として活躍しています。「函館は大好きだけど、もう帰ることはないと思う」と話す木村さんに、家業を手伝う中で知った両親の苦労や、西部地区で働いていたからこそ感じる観光地・函館の至らなさ、変化の激しいWEB業界で働く編集者としての展望などを伺いました。

 
取材・文章:阿部 光平、撮影:馬場 雄介、イラスト:阿部 麻美 公開日:2016年2月19日

 
 

 
 
 
 
 

観光客に優しくない函館の観光地
 

━━もう函館へは戻らない覚悟で上京してきたということですが、木村さんは、今の函館についてどのように思われていますか?
木村:すごく大好きな街だし、人から褒められると嬉しいし、こんなに良い街は他にはないと思いつつも、人が出てっちゃうのには理由があるし、観光客に対しても優しくないなって感じます。
 
━━「観光客に対して優しくない」というのは?
木村:西部地区って、観光地じゃないですか。うちのパン屋さんもそこにあるんですけど、あの辺りってお店が閉まるのが早くて、開くのは遅いんですよ。うちはパン屋さんだから割と早くオープンするんですけど、観光客の人から「この辺でお茶できるところないですか?」って聞かれることがあるんですよね。ホテルのチェックアウトが9時とか 10 時とかで、あの辺の飲食店が開くのってだいたい 11 時なんですよ。だから、お客さんには「うちのベンチで休んでいってもいいですよ~」って言うしかなくて。その間を埋められないのは、もったいないし、観光客に優しくないなと思います。コンテンツはいっぱいあるのに、マーケティングがうまくいってないというか。
 
━━思わぬところで観光客に寄り添えていないんですね。
木村:外に向けた PR はいいと思うんですよ。「いいところだから遊びに来てね~!」っていうのは上手くやってるんですけど、来てくれた人に対してはもっとできることがあるんじゃないかなって。もちろん、満足して帰ってくれる人も多いでしょうけど、もう一歩先にいけるんじゃないかなとも思いますね。
 
━━それは西部地区のお店で働いた経験がある人ならではの意見ですね。
木村:西部地区は街並みがすごく綺麗だし、カフェとかも絵になるから、早い時間に立ち寄れる場所とかがあると本当にいいですよね。
あと、あの辺って景観条例で古い建物は壊せないので、残ってる民家とかも味があっていいんですよ。だけど、街灯が少ないんですよね。夜空いてるお店も少ないから一帯が、どうにも暗くて。せっかく素敵な街並みなんだから、もう少し明るいと歩いているだけでも楽しいのになぁとも思いますね。
 
 

 
 
━━西部地区で働いていた人の目線から、函館に対する意見を伺いましたが、逆に離れてみて気づいたことはありますか?
木村:函館の人には〝おもてなし精神〟があるなぁと。何かを〝やってあげたがる〟人が多いなって思います。例えば、車で迎えに行くことが苦じゃなかったりするじゃないですか。自分もそうなんですけど、友達とかを迎えに行くのが別に苦じゃないんですよね。当たり前の感覚というか。東京だと公共交通機関が発達していることもあるけど、人を迎えに行くって感覚はあまりないですよね。
雪かきとかも、隣の 家がお年寄りだったりすると一緒にやったり。うちなんて親が共働きで、朝から晩まで家にいないので、近所のおじちゃんおばちゃんがやってくれるんですよ。 92 歳のおばあちゃんが家にいるってことを知っているので、近所の人がやってくれるんですよね。そういうのを見てると、人のために動くとか、おもてなしの心が強いなって感じます。
 
━━一方、今住んでいる東京の魅力は、どんなところだと思いますか?
木村:まだまだ未知なる世界が多いところですね。地元だと真新しいものって、あまりないじゃないですか。新たに人と出会っても、二人くらい辿っていくと知り合いと繋がってしまったり。誰かの元カレ、元カノなんてのもよくあるし。
東京だと出身も生い立ちも全然違うし、いろんな考え方を持っている人に出会えるので、どんどん新しいものが生まれますよね。知らないものを見たり知ったりするのって、わくわくするじゃないですか。そういう環境にいれるのはすごく楽しいことだし、もう函館には戻れないなって思います。
 
━━反対に東京で暮らしていて、物足りなさや不便さを感じることはありますか?
木村:自然がないってのは一番大きくて、月に一回は緑や水に触れないと心の安定が保てなくなりますね。井の頭公園とかは、たしかに緑があるんですけど、なんか違うなーって。奥多摩くらいまで行くと、やっと自然を感じられます。海にも、もっと簡単に行けたらいいのになって思いますね。港は七重浜に近かったから、余計に。
 
━━自転車で海に行けるっていう環境で育つと、東京って海が遠いなって感じますよね。
木村:遠いですよねー。「こんなに海行かなくなるか!」って思いますもん。函館にいたときは、焚き火するのも、 BBQ するのも、犬の散歩も、海だったので。こっちだと電車乗り継いで行かなきゃいけなくて、その間に気持ちが冷めちゃいますよね。
 
━━その気持ち、わかります(笑)。では、最後に今後の展望を聞かせてください。
木村:編集者としてはまだまだ駆け出しで、仕事のことで胸を張れるものがなくて。人の発信を見て共感することはできるけど、「私はこう思います」って外に向けて発信する機会も、そういう自信もないんですよね。だから、もっと確固たる芯を持って「私はこう思って編集してます」とか「こういうのがやりたいんです」っていうのを発信できるようになりたいです。
自分の中には〝正しさを大切にする〟という編集の軸があって、「みんなが知らない良いものを正しい形で届けたい」とか、「情報を正しく伝えたい」と思っているんです。そういう部分に共感してもらえるとすごく嬉しいので、まずは自分が有益な情報を発信できる人になるというのが今後の目標です!
 
 
 

MY FAVORITE SPOT

 
パン工房元町ぼんぱん

「実家です(笑)。オススメはチョココロネとレーズンデニッシュ。レストランに卸してるフランスパンも美味しいですよ。外国のお客さんにも好評です!」

 
 
七重浜の堤防から見る函館山

「一番左の防波堤から見る函館山がいいんですよね、学生の時に、山を見ながら語ったりしていた思い出深い場所です」

 
宇賀の浦中学校の脇から見た景色

「宇賀中の横にある川から入っていったとこの景色が好きなんです。浜側から見る函館山と、反対方面の湯の川。天気が良いと青森も見えます!」