友達にも隠し続けた17歳での漫画家デビュー
━━中学校でも部活は漫画部ですか?
敦森:中学はバスケ部でした。
━━バスケも好きだったんですね。それとも漫画部がなかったとか?
敦森:いや、バスケ部には友達に合わせてしぶしぶ入ったという感じです。漫画は相変わらず好きだったんですけど、中学生って思春期の真っ只中じゃないですか。当時って、〝漫画好き=オタク〟みたいな雰囲気だったんですよ。今でこそオタクカルチャーは市民権を得てますけど、その頃は「ダサい」とか「モテない」とほぼ同義だったので、オタクっぽく見られることにはかなり抵抗がありました。だから、漫画好きというのは封印していましたね。
━━それは単に外面としてですか?
敦森:そうですね。中身は正真正銘の漫画オタクなんですけど、外面としては「私、バスケやってます!」みたいな(笑)。家では漫画を描いてましたが、とにかくひっそりやってましたね。
ちょうどその頃に、同人誌という存在を知ったんです。函館でもコミケ(※4)があったので。
━━へぇー! そうなんですね。知らなかった。どこで開催されていたんですか?
敦森:亀田支所の近くにある会館みたいな場所で行われていました。100組くらいは出店してたかな。ただ、学校の友達に言うとオタクだと思われるので、そこにもひとりで行ってました(笑)。
━━徹底して漫画好きを隠し通していたんですね(笑)。
敦森:はい、思春期真っ盛りだったので(笑)。そこで知らないお姉さんとかと仲良くなったりして、そのうちに自分でも出店するようになったんです。アンソロジー本(※5)を企画している人がいて、作家を何人か集めて、みんなで一冊を作るといった感じで。
━━つまり、中学の頃は仮面バスケ部で、実は漫画を一生懸命やってたと。その頃には、将来漫画家になろうという意識はありました?
敦森:中学の頃は、まだありましたね。
━━「まだ」というと、その後は失われていったわけですか?
敦森:小中学生の頃は本気で漫画家になろうと思っていて、当時、佐川急便のトラックに描かれている飛脚のふんどしに触ると願いが叶うみたいな都市伝説があったんですけど、見つける度にふんどしに触れては「漫画家になれますように!」と願い事をしてました(笑)。神社とかにお参りに行った際も必ず、願い事はすべて「漫画家になれますように!」とお祈りしてましたね。
━━純朴でいい話ですねぇ。心が洗われます(笑)。
敦森:でも、高校に入ってからは漫画がだんだん遠のいてきました。他になりたい職業ができたとかではないんですけど、なんとなく。ライブとかに遊びに行くことが多くなって、漫画がどこかに行ってましたね、そのときは。
━━では、高校ではどのような生活をしてましたか?
敦森:帰宅部だったので、何してたんだろ。友達と遊んでましたね。だけど、2年生の時のクラスに、漫画を描きたいっていう友達がいて、どこから仕入れたのか私に「昔描いてたんだよね?」って言ってきて。
━━あんなにひた隠しにしてたのに?
敦森:そーそー。どっかから漏れたんでしょうね(笑)。その子から「漫画の描き方教えてよ」って言われたんですけど、そこで「私も漫画描きたい!」という熱が再燃して、久々に作品を描いたんです。それを勢いで『別冊マーガレット(※6)』という雑誌に投稿したら、なんとデビューが決まったんですよ。
━━素晴らしいシンデレラストーリーじゃないですか! デビューが決まった時の周りの反応はいかがでした?
敦森:ほとんど誰にも言ってなかったので、特に(笑)。親は喜んでくれて「やったねー!」とか言ってくれたんですけど、やっぱり恥ずかしいって気持ちの方が大きかったです。
━━デビューが決まってまで秘密にするとは(笑)。本当に恥ずかしかったんですね。
敦森:授業中とかも、ずっとネームとかプロットとか書いてたんですけど、誰かに読まれたら嫌なので、自分で暗号文字を作ってるくらいでした(笑)。万が一ポロっと落としたとしても、誰にも理解できないように(笑)。
━━鏡文字を使ってたレオナルド・ダ・ヴィンチみたいですね(笑)。そこまで徹底して知られたくないという姿勢を貫いていたのは、漫画が実体験をベースにした内容だったからですか?
敦森:いや、今は実体験をもとに身の回りのことを描くこともありますが、その時は違いました。単に〝漫画を描いている〟ということが恥ずかしかったんです。
今思うと、高校生の時も漫画家になりたいという夢は持っていたはずなんですけど、それを口にするのが恥ずかしいあまりに進路相談でも「エスティシャンになります」とか言ってました(笑)。
━━あぁ、なんかわかります。そういうの。自分の好きなこととか、やりたいことを素直に言えない思春期だからこその照れというか。
敦森:特に漫画家って得体の知れない職業じゃないですか。お給料とかもよくわからないし。「夢見てんじゃねーよ」とか思われそうで、人には言えませんでしたね。