突飛な人間関係の中で確立された〝自分のポジション〟
━━その不動産会社には何年くらい勤務していたんですか?
若山:3年くらいですね。僕が入社した後に、今一緒に会社をやってる人たちが入ってきて、それぞれが抜けていったという感じです。
━━若山さんが会社をやめようと思った理由はなんだったのでしょうか?
若山:簡単にいえば、忙しすぎて心が折れたという感じですね。
━━会社がだんだん大きくなっていって、業務が増えてきたことで、疲れてしまったと。
若山:いや、会社は最初からむちゃくちゃ忙しくて、定時が終電で、週に2回は会社に泊まるような生活だったんです。社員が順調に増えていって、上っ面で言えば「会社が大きくなって、自分のイメージと違ってきた」というのもあるんですけど、正直言うと心が折れたというのが一番の理由ですね。まぁ、当時は恥ずかしくてそんなことは言えませんでしたけど。
━━確固たる意志を持って辞めたというよりも、限界に達したという感じだったわけですね。そこから会社設立までは、どのような経緯を辿ってきたのでしょうか?
若山:不動産会社を辞めた後は、日本の大きな企業で働いてみようということで、小松製作所に入社しました。それまでものすごく忙しかったので、逆に「定時で帰って趣味を大事にする!」みたいな仕事の仕方をしてみようと思って。
━━仕事は仕事でやりながら、自分の時間も作れるような環境で働いてみようと。
若山:そうですね。コマツって、残業に対する姿勢がすごく厳しいんですよ。基本的には残業させないし、するなら絶対に残業代が出るといった感じで。とりあえず。勝手に残業とかしちゃいけないんですよね。17時45分になると社内アナウンスで「仕事を切り上げて帰りましょう」って放送が流れてたくらいです(笑)。
━━学校みたいですね(笑)。
若山:本当にそうなんです。そういう会社だったので、今までとはあまりに環境が違って、部活を引退した後の人みたいになっちゃったんです。それまでは毎日深夜まで働いてたのに、18時には退社させられて(笑)。しかも、社食とかもあったので、お金も貯まるんですよ。だけど、「やることねーな」って感じで。そこで、中高生の頃にハマっていた『マジック:ザ・ギャザリング』( ※1)というカードゲームを、またやり始めたんです。
━━今までは忙しすぎて疎遠になっていた趣味を再開したわけですね。
若山:はい。僕の周りには、海外の大会に出場したり、プロとしてカードゲームで食べていたりとか、プレーヤーとして強い人がけっこういたんです。
そのうちのひとりが、海外でカードを買ってきて日本で売るみたいな、いわゆるバイヤーみたい仕事をしていて。彼は世界最優秀選手にも選ばれたことがあって、海外でもサインを求められるようなプレーヤーだったんですけど、ある時「通販サイトを作って、大々的にやりたい」みたいな話をされたので、「それすげえ金になるよ!」って言って、一緒にサイト運営をすることにしたんです。
━━会社を辞めてですか?
若山:そうですね。この人となら一緒にできると思って脱サラしました。彼は、世界的プレーヤーとして広告塔にもなるし、 仕入れと売り物の値段をつけるセンスが天才的な人だったんです。ただ、 17 歳で日本の大きな大会で優勝してから、ずっとプロプレイヤーとして活動してきた人なので「いわゆる社会人か?」っていうとそうじゃないんですよね。
会社を大きくしようとすると、通販サイトを作って、カードを売ってというだけじゃなく、財務とか経理とか、人事とか、いろいろ出てくるじゃないですか。 別にそういうことがしたいってわけじゃなくて、「カード売りたい」「プレイヤーとして活躍したい」というところをやりたいという話で。「じゃあ、会社の運営に必要な諸々は俺が引き受けるよ」という形で分業体制でサイトの運営を始めました。結果的には大成功で、通販のサイトとして日本で一番大きくなって、従業員もアルバイトを含めて5~60人の規模にまで成長したんです。
━━まさに順風満帆ですね。立ち上げから携わって、成長を遂げ、会社に対する愛情もあったと思いますが、なぜ、自ら抜けるという決断をしたのでしょう?
若山:バンドでいう音楽性の違いじゃないですけど、彼は小売店としてガンガンやっていきたいというのがあって、僕はネットを使ってカードゲーム業界をもっとよくしたいという気持ちがあったんです。
組織が小さい時って、やれることは少ないんですけど、やりたいことはたくさんあるじゃないですか。ただ色んなことをこなして、会社が大きくなるにつれ、やれることが少なくなっていくんですよ。そうすると、今度は手段が分かれてくるというか。好みやヴィジョンによって、方針が変わってくるんですよね。それで、僕が抜けることにしました。
ちょうどその頃に、不動産会社で同期だった人間から、映像制作の会社を作って独立するという話があったんです。彼も、これまで自分が付き合ってきた人たちに負けず劣らずのブッ飛んだ人で(笑)。 めちゃくちゃ仕事できる人で、カリスマ性がある感じの人なんですけど、裏方的な仕事が得意というタイプじゃないんですよね。でも、僕は、これまでにも数々のブッ飛んだ人を後から支えてきたので、「あ、そのポジションやったことあるわ!」って感じで、裏側から支えるお仕事をもう一回やることになりました(笑)。それが2014年の初めの頃ですね。
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