言葉が通じない環境で芽生えた"職人"への憧れ
━━はじめに、現在の生活やお仕事についてお聞かせいただけますか?
蒲生:今は函館に住んでいます。仕事は個人で洋服のリサイズやリペアなどの〝お直し〟をしつつ、夜はアイリッシュパブでアルバイトをしています。
━━今の仕事は、いつ頃から始められたのでしょう?
蒲生:函館に帰ってきたのが2014の8月で、アイリッシュパブで働き始めたのが10月頃です。帰ってきてからまずアルバイトを始めて、昼間は独立するための準備をしていました。お直し屋をスタートさせたのは、2015年の1月末ですね。
━━お直し屋さんというのは、具体的にどのようなことをしているのですか?
蒲生:一番多いのはズボンの丈ツメですね。次はデニムのリペア。デニムの破れをきれいに塞いだり、良い雰囲気で履けるように直しています。その他には、スーツのサイズ直しなどもやっています。例えば、型の古いスーツは肩パットが分厚いので、それを薄くしたり、袖や肩幅を詰めたりして、今風に直したりとかもしています。
━━お店はどの辺りにあるのでしょうか?
蒲生:店舗は構えてなくて、作業は実家の事務所を間借りして行っています。インターネットや電話で注文を受け、ご自宅までピックアップしに行き、その場でフィッティングをして、持ち帰って直すという流れです。もちろん、直し終わった服は、直接ご本人のところまで届けています。
━━実際に家まで取りに来てくれて、しかもその場でサイズ合わせもやってもらえるというのは嬉しいサービスですね。
蒲生:小さい街だからこそできるサービスかもしれません。作業としても、お客さんの顔を見てからの方が、完成のイメージがしやすいですし。
━━そもそも、蒲生さんが、お直しという仕事を始めたきっかけは何だったのでしょう?
蒲生:大学時代に遡るんですけど、3年生の時に半年間イギリスに留学していたんです。その時に約1ヶ月の冬休みがあって、それを利用してひとりでヨーロッパ旅行をしたんですよね。言葉も通じないところで様々な経験をしていく中で、漠然と「腕一本で仕事をして、技術でお金を稼ぎたい」と思うようになりました。それで〝職人〟に憧れるようになったんです。
━━「服を直したい」という気持ちよりも、「職人になりたい」という気持ちが先にあったということですか?
蒲生:そうですね。まず職人になりたいと思うようになって、そこから何の職人になろうかと考え始めました。
━━なるほど。では、数ある職人という職業の中で〝お直し〟を選んだ理由は何だったのでしょう?
蒲生:帰国後、どんな職人になろうか考えていたんですが、ちょうどその頃に、デニムのリペアという仕事があることを知ったんです。もともと洋服が好きだったのもあって、「これはいいかもな!」と思いました。大学が東京だったので、すぐに東京近郊のお直し屋さんを探したんです。
いくつかのお直し屋さんを見つけて話を聞きに行ったんですが、経験もないから雇ってもらえるところはなくて…。まぁ、当然といえば、当然なんですけど。そうこうしているうちに、4年生の12月になっていたんです。「周りは内定とかもらってるのに、俺は何も決まってない」みたいな状態でした。
━━「俺は職人になるんだ!」と腹をくくっているとはいえ、内心ちょっと焦りますよね。自分だけ置き去りにされていくような不安感というか。
蒲生:そうですね。だけど、その時ちょうど、友人から渋谷にお直し屋があるという情報を得たんです。とりあえず話だけでも聞きに行こうと、電話もかけずに飛び込みました。「お直しの仕事に興味があるんですが、どうしたら働けるようになりますか?」って感じで。
服飾の学校を出たわけでもないし、お直しの経験も当然ない。それどころかミシンすら触ったことがないという状態だったんですけど、社長がすごく親身に話を聞いてくれたんです。そしたらなんと、元々は社長自身も学校とかを出ていない未経験者だったことがわかったんですよ。
━━その点は、蒲生さんと似たような境遇だったんですね。社長さんは、なぜお直しの世界に入ったのですか?
蒲生:元はアパレルの営業をやっていたそうなんですけど、その中で販売だけではなくリペアの仕事も取ってくるようになったらしいんです。そしたら今度は、お直しの方の手が回らなくなり、自分も手伝うようになったみたいで。そこで技術を学んで、独立したということでした。
━━だからこそ、蒲生さんのような熱意ある人を応援したいという気持ちがあったのかもしれませんね。
蒲生:そうですね。結局、そこでも「人手は足りてるから雇うことはできない」と言われたんですが、平日の夕方とか、忙しくない時間帯だったら、ミシンの使い方を教えてくれるという話になったんです。
さらに、卒業の1ヶ月前になって、社長から「3月で辞めちゃう人がいるから、やる気があるならウチに来ない? 経験ない分、給料は安いけど」という連絡をいただいて。もちろん「やります!」と即答しました。