国の行政機関で学ぶ〝国と自治体との円滑な関係性〟


━━沼田さんは函館市の職員ということですが、現在は東京でお仕事をされています。まずは、その経緯について教えて下さい。
沼田:函館市役所では、2年ごとに職員を国土交通省に派遣しているんです。2年の任期が終わったら、また次の人が来るというのが繰り返されているんですけど。今は、私の番になっています。

━━なるほど。国土交通省では、どのようなことをされているんですか?
沼田:国の事業を通じて、国の考え方や仕事の進め方などを勉強しています。
今、自分は北海道の港湾・空港を担当する課で仕事をしているんですけど、函館市って空港や港湾がある街なので、いろいろと手をかけて整備していかなきゃならないんです。そういった施設の整備というのは、国と連携して進めていくので、市の要望に対して国はどんな考えをしているのかということを学んでいます。

━━国側がどんな考えで施設整備を進めているかを把握することで、市と国の連携をスムーズにしようと。
沼田:そうですね。例えば、函館駅のすぐ裏に若松埠頭っていうところがあって、そこにクルーズ客船を入れたいって話がずっと前からあるんです。
現状では、港町埠頭とか、ちょっと離れたところにクルーズ客船が入っているんですけど、あの辺は函館らしさが感じられる場所ではないから、観光で来た方なんかは「ここ、どこ?」ってなっちゃうじゃないですか。
やっぱり、船から降りた瞬間に「函館きたー!」って思ってもらえるように、函館山の麓で、近くに朝市もあるというエリアに誘導したいんですけど、今はクルーズ客船が入れる施設がないんです。

━━はい、はい。
そういう状況を変えたいと思っても、国からOKが出ない場合なんかに、「国はどういう考えでダメだと言ってるんだろう?」とか、そういうこと学んで、別の手立てを考えられるように国の組織の中に入ることで勉強しています。

━━つまり、国土交通省に在籍していながらも、やっているのは函館市に関わる業務ってことなんですか?
沼田:いや、仕事そのものは、国土交通省のものがメインです。そこの仕事に携わりながら、国と市のバランスなどについて勉強しているという感じです。

━━そういう人を2年ごとに派遣して、国道交通省での経験を函館市役所に持ち帰った職員が国とのやりとりを担うと。
沼田:えぇ。全部ではないですけどね。
一度、函館市以外の組織を見てみるというのも目的のひとつです。見聞を広げるというか、価値観を広げるというか。

━━函館市役所の職員の方って、この機会がなければ、ずっと函館市役所にいるんですか?
沼田:国土交通省以外にも、他の機関に派遣・出向というのはいくつかあるんですけど、それも毎年数人しかいないような規模感なので、ほとんどの人は函館市内から出ずに、ずっと役所に勤め続けています。
観光の部局から港湾・空港を担当する部局に移動するというようなことはあっても、函館市以外に通勤するようなことは、ほとんどないですね。

━━沼田さんは希望して、国土交通省に行かれたんですか?
沼田:そうです。函館市の場合は公募制なので、職員の中で行きたい人を募って、小論文や面接などの審査をした上で、派遣する人間を決めています。
私の場合は、民間企業に就職した後に、転職して市役所に入ったので、一応会社というのは見ているんですけど、そこで学んだことと市役所で学んだことは違うことばかりだったので、また別の組織のことも知りたいなと思って応募しました。





━━実際に、東京に来られたのは何年前ですか?
沼田:2015年の春ですね。2017年の春までが私の任期で、その後はまた別の職員が来ることになります。

━━地方の役所から、国の機関に来て働いてみた感想はいかがですか?
沼田:こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、めっちゃ楽しいですね(笑)。非常に勉強になります。
私がいるのは、国土交通省の中でも北海道のことだけを優先的に見る『北海道局』という組織で、主に空港関係の業務を担当しています。空港を整備するための、予算要求を行うというのが一番大きな仕事ですね。

━━具体的には、どのような仕事内容なのでしょうか?
沼田:例えば、北海道の空港だと、冬になると飛行機が離着陸できずに、引き返しちゃうってことがあるじゃないですか。そういう不安定な状況になる空港から、「いつでも飛行機がちゃんと発着できるように整備してほしい」といった要望がくるんです。そういった声を、国の空港をすべて管理している航空局というところに届けていくという役割です。
簡単に言えば、北海道局というのは、北海道の人たちの声の入り口となる機関ですね。

━━そういった声が国に届いて事例が解決するということは、つまり、整備に必要な予算が下りるということですか?
沼田:そうです。国土交通省って、空港に限らず、ハード面を整備するという役割が大きいんですよ。例えば、道路が全然通れないってなっている場合に、2車線にすることで解決するといった問題だったりとか。そういうハード面の整備が多くなるので、それを実施するための予算を獲得するというのが、北海道局の仕事における一番大きな部分ですね。
そのために何をするかという大前提のところで、まずは、地元の方の声を届けてもらう最初の入り口になるというポジションなんです。

━━ちなみに函館からは、どんな要望が多いんですか?
沼田:函館はやっぱり道路ですね。函館新道から空港まで繋がる予定の新外環状道路の建設とか。他に道南圏でいえば、松前半島道路というのもあります。現在は国道228号という松前方面に繋がっている道路があるんですけど、山の中を通っていたり、海岸線でも崖の横にあったりするので、落石とか大雪とかで通れなくなることがあるんです。だけど、道路はそこ1本しかないんですよ。
松前の方って、医療機関があまり多くないので、函館まで救急車で運ばなければいけないようなこともあるんですけど、そういうときに道路が通れないと大変ですよね。普段通るときに不便というのもあるんですけど、人命に関わることでもあるので、整備を求める声は多いです。

━━それは緊急性の高い話ですね。
沼田:えぇ。あとは、さっきも話したように、「函館港にクルーズ客船が入ってほしい」といった港湾に関する声もあります。やっぱり観光客の入り口として、ひとつのチャンネルなんです、船というのは。
港湾の管理者は函館市なんですけど、港湾そのものは国有なんです。仮にすべてを市の負担でやるとなると、とんでもない額になってしまうので、国と協力して実施したいという要望があったりします。





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