■便利さや安さよりも重視する〝街の循環に繋がる消費活動〟
━━兵庫や京都、東京などで暮らしてきた経験から、他の街と比較して函館の魅力はどんなところだと思いますか?
苧坂:取り残された感じというか、昔のままであるところですかね。京都とかは完全に手が入っちゃってるし、保存っていう意味ですごくお金を投資して、守っているというのはあるんですけど。函館は何もしてないので、そのまま手付かずの状態で建物とかが今も残ってるんです。今は意識して保存していかないと無くなってしまうタイミングではあると思うんですけど。
━━柵に囲まれて見世物になってるわけでもなく、生活の場の中に昔のものが当時の姿で残っていると。
苧坂:そうですね。そこが良さかなと。
━━逆に物足りなさを感じる部分はありますか?
苧坂:う~ん、もうちょっと面白いお店が増えたらいいなとは思いますけど。
━━具体的には、どういうお店ですか?
苧坂:小さくてもこだわりが感じられるお店とか、ラインナップは少なくても長く付き合えるお店とかですね。
今ってなんでもネットで買えちゃうんですけど、できれば買い物はお店の人と話して、こだわって仕入れているものなんだったら、お金もそのお店に落ちて、それが回っていってほしいなと思うので、「ここで買いたい」と思うお店が増えると嬉しいですね。ジーンズが好きなので、ほつれても直してくれて、長く付き合えるお店とか。
━━単純に買い物するだけじゃなくて、その後もちゃんと付き合えて、なおかつそのお金が次の展開に繋がるといった消費の在り方ですね。
苧坂:そうですね。ついつい安い量販店に行っちゃうんですけど、安い理由には裏があるということを考えると、しっかり背景まで考慮した上で買い物したいなって思いますね。東京とか、札幌に行けば、そういうお店もたくさんあるんだろうけど、そういうお店がなるべく近くにあってくれたら一番いいなって思います。
━━お店だけではなく、街の循環に繋がるような消費活動というイメージですかね。
苧坂:そうですね。最近は何でもネットで買えるから、お店でサイズだけ確かめて、ウェブサイトから最安値で買う人が増えているっていうじゃないですか。お店が〝ショールーム化〟しているという。そういうのを、店の役割として割り切ってるところもあると思うんですけど、それって悲しいと思うんですよね。
私も若い時は、そういう買い方をしてたんですけど、やっぱり個人事業主になってお金を頂く側になると、お金があるから自分達の仕事や暮らしが回るわけで、応援したい人に払いたいという気持ちが生まれました。気に入ったお店があって、買いたい商品があって、そしたら、その人がその仕事を続けていくためにお金を払いたいなって。
お店にサイズがないからネットで買うというのではなく、「このサイズは入荷予定ありますか?」みたいな感じでコミュニケーションをとりながら、〝ちょっと前の買い方〟が普通になったらいいなと思いますね。みんなじゃなくてもいいけど、そういう人が増えたらいいなって。
━━安く買い物できればいいって話ではなく、納得のいく買い物をしたいという姿勢というか。
苧坂:2000円とかで売ってるジーンズとかありますけど、あんなの絶対2000円じゃ作れないじゃないですか。その背景には、安い賃金での働かざるを得ない人がいるんだろうなとか考えちゃって。そういう人達のために安いジーンズを買い続けるって方法もあるとは思うんですけど、そしたらその人達は2000円のジーンズを作り続けなきゃいけないわけじゃないですか。「それは果たして気持ちのいい買い物なのか?」って。
━━消費に対して、そういう考え方を持つようになったのって最近のことですか?
苧坂:そういう考えになったのは、子どもが生まれてからですね。その直後に起こった東日本大震災の影響もあると思うんですけど。それから社会のことを勉強しようと思うようになりました。
いろいろ勉強するようになって、社会の裏側というか、世の中には不当な労働条件で働かされている人とかもいるということを知りました。それを自分の娘に置き換えて考えると、もういたたまれないというか、立ち直れなくなっちゃうんですよね。だからといって、大富豪なんかじゃないから、自分にできることはひとつひとつ考えて選択することだけかなって思っています。
━━「選択する」というのは、ひとつの意思表示ですもんね。
苧坂:そうですね。子どもを産んですぐに東日本大震災が起きたので、かなり母性が働いたのか、原発に関して過敏になったんですよね。でも、「危ない危ないって言ってるだけじゃ何も始まらないので、勉強しないと」って主人に言われたんですよ。それまでは、社会に対して全然興味がなくて、新聞なんかも読んだことなかったのに、子どものためって思うとすごく入ってきたんです。そこからは、食べ物の選び方を含め、消費に対する考え方が大きく変わりました。
━━お子さんの話がありましたけど、今後は函館でどういう生活、仕事、子育てをしていきたいか、何かビジョンがあれば教えて下さい。
苧坂:仕事はもちろん、引き続き箱バルで面白い活動をしていきたいとは思うんですけど、けっこう今も家庭内に無理があって…。2人の子どもがいて、パン屋をやっていて、私も仕事があってっていう中で、箱バルも同時に動くと、家の中がむちゃくちゃになったりするんですよ。箱バルはまだお金を生み出せていないから、ちゃんと労働の対価が入ってくるようになればって感じではあるんですけど。
いくら忙しくても、子どもはないがしろにしたくないですし。上の子が小学校にあがったんですけど、やっぱり学校って枠にはめたがる教育をするものなんだろうけど、小さくなってほしくないなと思います。言いたいことを言える子であってほしいなって。
━━子どもの年齢や環境が変化すると、親の悩みも変わってきますよね。
苧坂:そうですね。とにかく今は、子どもを伸び伸び育てる方法を模索しながら、ちゃんと仕事も面白いことやっていきたいなって思っています。それと、自分たちの老後も見据えつつ、この街で暮らしていきたいですね。
Pazar Bazar
「ここのご飯が函館で一番美味しいと思っています。ひとつひとつの料理が丁寧で、なおかつ調和がとれてるんですよ。素材もちゃんと厳選されていて、それがちゃんとわかるプレートになってるのがすごいですね。」
姿見坂
「船見町にある坂なんですけど、あそこからドックが見える風景が好きです。ドックの無骨な感じといか、閉鎖的な雰囲気が興味深くて。それと海を含めた綺麗な景色がいっぺんに見られるスポットなんですよね。」
ともえ大橋から見た駒ケ岳
「ともえ大橋から大沼へ行く時に、駒ケ岳が見える時があるんですよ。小さくなんですけど。それが見えると、「今日はツイてるな!」って。幸運のバロメータみたいな感じです(笑)。」