■運命を変えたオーストラリアでの出会い

━━高校卒業後の進路は？
木村：はこだて未来大学の複雑系科学科ですね。

━━その学校、学科を選んだ理由は何だったのでしょうか？
木村：推薦の枠があったからですね！　担任の先生から「こういうのあるけど」って言われて、「じゃあ！」みたいな（笑）。

━━特にどこの大学に行きたいとか、何を勉強したいとかはなく？
木村：ないっすね！　大学へは、遊べると思ったから行った感じです（笑）。別に未来大じゃなくてもよかったというのが正直なところですね。

━━どうせ遊ぶなら、札幌や東京に行こうという気持ちはなかったですか？
木村：ないですねー。特に函館に不満も感じてなかったし。

━━実際に、大学生の時はよく遊びました？
木村：遊びましたねー。旅行したり、キャンプに行ったり。でも、サッカーだけは、ずっとやってました。むしろ、サッカーの遠征のついでに遊びに行くって感じでしたね。

━━とことんサッカー好きですね！　ちなみに複雑系科学科を卒業された人たちというのは、どういった道に進む人が多いのでしょう？
木村：第１期生ということもあって、大学側も気合いが入ってたのか、みんな一流企業でしたよ。大手メーカーとか。

━━そんな中、木村さんはどういった仕事に？
木村：何社か受けて、五稜郭病院に務めることになりました。

━━何社か受けたうちには、市外の企業などもあったんですか？
木村：そういえばなかったですね。

━━大学卒業後も函館から出るつもりはなかったんですね。最終的な就職先を病院に決めたのは、どういう理由だったんですか？
木村：安定してそうだと思ったからです（笑）。

━━実際には、どんな業務を担当していたのでしょうか？
木村：総務課人事係というところで働いてました。でも、９ヶ月で辞めましたね。

━━仕事が合わなかったんですか？
木村：いや、仕事は楽しかったですよ。可愛い看護婦さんとかもたくさんいて（笑）。でも、オーストラリアに行きたくなっちゃったんですよね。ワーホリで。

━━かなり急な展開ですね。〝安定〟という部分に惹かれて病院に勤めたにも関わらず、９ヶ月で辞め、そこからオーストラリアへ行きたいという気持ちが芽生えた理由がぜんぜん見えないんですが（笑）。誰かの影響を受けたとか？
木村：そういうのはまったくなくて。何だったんだろう、ホント、急に思ったんですよね。それまでは、函館を出たいとか一度も思ったことなかったのに、なんか急に。
なんか無意識に「出たい」って気持ちが溜まってたのかな？　それが決壊したのかも。だから、札幌とか東京とかじゃなくて、思いっきり遠い場所に行きたくなったのかな？　わかんないけど（笑）。

━━ワーキングホリデーというシステムは、オーストラリアだけではなく、ニュージーランドやカナダにもありますが、なぜオーストラリアを選んだのでしょう？
木村：「オーストラリアはカッコイイ！」と思ってたからだと思います。

━━カッコイイ？？　何がですか？
木村：カッコよくないですか？　オーストラリアってカッコイイじゃないですか！　強そうで！

━━強そう？？　カッコイイ？？　ちょっとイメージが掴めないんですが（笑）
木村：えー、ウソ！？　強そうじゃないですか、オーストラリア！　俺は、今でもそう思ってるんですけど。

━━人が…？　ですか？　確かにオーストラリアの人って体は大きいし、どこへ行くにも短パン、Ｔシャツ、ビーチサンダルってイメージだし、生命力が強そうだなとは思いますけど。
木村：そう、生命力！　なんかヨーロッパって文化的なイメージがあるじゃないですか。オーストラリアもヨーロッパの文化なんだけど、どこか野性味溢れるというか。パワフルというか。

━━それはそうですね。そういう意味の〝強そう〟でしたか。ようやく理解が追いつきました（笑）。しかし、オーストラリアを選んだ理由はソレだけだったんですか？
木村：そうですね！　あとは、ちょうどその頃、ニセコにオーストラリア人観光客が大量に来てるってことを知って。現地へ行って、オーストラリアのこと勉強し、英語も話せるようになって、ニセコでラフティングのガイドになろうとも思ってたんですよ！

━━そっちの理由の方がしっくりくるんですけど…（笑）。とにかく、そこまでの道筋を描いて、ワーホリに行ったわけですね。
木村：ニセコに、NAC（ニセコアドベンチャーセンター）って会社があって、そこに電話してから行きました。「オーストラリアでいろいろ勉強してくるので、帰ってきたら雇ってください！」って。「帰国したら連絡ください！」って返事だったんですけど、結局１０年間帰って来なかったので、連絡することはなかったですね。

━━もともとラフティングとかやってたんですか？
木村：いや、やってないです（笑）。

━━では、どうしてラフティングのガイドになろうと？
木村：いや、わかんないですね（笑）。オーストラリア人の〝強い〟イメージが好きで、彼らがたくさんニセコに来てたからとしか言いようがないです（笑）。

━━なんというか、木村さんは、とにかく好奇心の赴くままに行動するタイプなんでしょうね（笑）。帰国後はラフティングのガイドになろうと考えていたということは、ワーキングホリデービザの期限である、１年間で帰国するつもりだったということですよね？　それがなぜ１０年という長期間になったのでしょうか？
木村：最初は１年で帰ってくるつもりでした。でも、向こうで今の奥さんと出会っちゃったんですよね。それで、１０年になりました。

━━僕の理解力が足りないせいか、ちょっと話が飛躍したように感じたんですが（笑）。今の奥さんと出会ったことが、どうやって１０年の滞在に繋がるんですか？　向こうの方と結婚されたということですか？
木村：いや、日本の人ですよ。えっと、彼女はもともとオーストラリアでダイビングの仕事をしていて、ビジネスビザを持ってたんですよ。その恋人ってことで、自分もビジネスビザを取れたんですよね。

━━婚約者ではなく、恋人ってことでですか？　籍が入っているならまだしも、交際中であることってどうやって証明するんですか？
木村：それはけっこう面白いんですけど、いろいろあるんですよね。例えば一緒に暮らしていることを証明するために、電気代の請求書を連名にしてもらうとか、携帯電話の通話履歴を見せるんですよ。

━━「この人とは恋人だから、頻繁に話してますよ！」ってことですか？
木村：そうですね！　あとは、一緒にとった写真の日付とか、お互いに送った手紙も交際を証明するために有効な資料になるんですよねー。

━━こう言っちゃ何ですが、どれも簡単に偽造とかできそうな気がするんですけど…（笑）。
木村：まぁ、それだけじゃないんですけどね。書類も大量にあるので、俺の場合は弁護士にお願いして手続きをやってもらいました。費用も３０万円くらいはかかったかな。それで、４年後には向こうで彼女と結婚したんです。