東京と大沼を行き来する母親が実践する
〝田舎を諦めない〟都会暮らし

葭葉 抄子さん(32)
 職業:ウェディングコーディネーター
出身地:函館(大沼)
現住所:東京
函館(大沼)→東京→オーストラリア→東京

 

ビーチや公園、キャンプ場などを舞台に、自由で個性的な結婚式を数多く手がけている『Happy Outdoor Wedding』で、コーディネーターとして活躍する葭葉抄子さん。自身のウエディングを故郷・大沼で挙げ、改めて地元の人や環境の素晴らしさに気付かされたといいます。
東京、オーストラリアと拠点を移すごとに大沼の魅力を再認識し、「故郷を盛り上げたい」という気持ちで地元に戻るものの、その度に自分がいかに勘違いをしていたかを痛感させられてきたという葭葉さんに、夢がなかったことに対する焦りや、大沼の人達のハイレベルな暮らしぶり、「東京でも田舎を諦めない」というスタンスの都会生活などについて伺いました。

 
取材・文章:阿部 光平、撮影:馬場 雄介、イラスト:阿部 麻美 公開日:2016年9月17日

 
 

 
 
 
 
 

 
場所を言い訳にしない〟という暮らし方
 

━━大沼の暮らしに魅せられつつ、1年で東京に戻ろうと思ったのはなぜだったんですか? やはり映像の仕事に就きたいという気持ちが強かったんでしょうか?
葭葉:いや、その時はもう映像に対する興味は失ってて。本当はもう地元で暮らそうという気持ちだったんですけど、今の旦那さんとお付き合いしてたのもあって、一旦東京に戻ってきました。最初は3ヶ月って言ってたのを、半年、1年と無理やり延ばしていたので。
 
━━そうだったんですね。それからは、どんな生活を?
葭葉:函館にいる間に自転車の面白さに目覚めて、中東を 10 日間くらいかけて走るっていうイベントに参加したのもあって、東京では自転車のコンセプトストアで働いていました。
 
━━本当にいろんなジャンルの仕事をしていますね(笑)。
葭葉:そうなんですよね。ある意味、高校生の時に思ってた、「いろんなことをしてみたい」というのは実現したかもですね(笑)。
H.O.W のボランティアスタッフをやり始めたのも、その頃です。
 
━━今は東京で、H.O.Wの仕事や子育てをしている生活ですけど、まだ地元に帰りたいという気持ちはあるんですか?
葭葉:ありますね、ずっとあります。旦那には、ことあるごとに言ってますね。もう耳にタコができるくらいだと思います(笑)。旦那は、「 60 歳までは東京で仕事したいから、そのあとね」って言ってるんですけど、私としては「 60 歳で行ったところで、薪割りもできない体じゃ大変だし、自分で野菜を作ったり、自分達の暮らしをちゃんと自分達で作りたいから、今すぐ行きたい」って。
 
━━それが難しいのは、旦那さんの仕事の関係で。
葭葉:本当にそれだけですね。
 
━━そこの折り合いつけるのって難しいですよね。
葭葉:めっちゃ難しいです。だから、旦那から仕事の愚痴とかを聞くことがあれば、「すぐに辞めたほうがいい!」と言ってるんですけどね(笑)。
 
━━(笑)。
葭葉:でも、最近ようやく、それじゃダメだなって思うようになって。「家族はチームなんだよ」って友達に言われてからは、お互いに応援できるような存在であろうと思うようになりました。
今年の2月に、大沼でアウトドアウエディングを開催したんですけど、そうやって東京と大沼を行き来する中で、それぞれのいい所を見つけていけたらいいなと、今は、そう思っています。
 
━━特に向こうに拠点を置かなくても、行ったり来たりする中で楽しもうと。
葭葉:そうですね、新幹線も通ったし。
久しぶりに大沼でウエディングを開催することができて思ったんですけど、大沼とアウトドアウエディングってめちゃくちゃ相性が良いんですよね。地元の人もとっても協力的でいてくれて、これからは大沼エリアの窓口を作ることになったので、地元の人もそうですし、離れてても自分の町で結婚式を挙げたいなという人が増えると嬉しいですね。
 
 

 
 
 
━━仕事としては、大沼と東京を行き来するのが理想というお話でしたが、2人のお子さんを持つ母親としては、どういう子育てをしていきたいという思いはありますか?
葭葉:私、すごく大沼が好きなんですけど、そういう感じで、どこでもいいので、子ども達が好きだなと思える場所ができればいいなと思っています。
一時、私は自然が少ない東京が嫌いすぎて、「子育てができるような場所じゃない!」と思ってたんですけど、でも自分のお母さんが、自分が住んでる町のことを嫌いって言ってたら嫌だなって思って。だったらもっと好きでいてほしいなって。それから、「東京でも自然って楽しめるんじゃないかな?」と考えるようになって、「東京だから無理」と言わずに、こっちでも自然で遊ぶことを意識するようになりました。
 
━━もう東京での子育てに、抵抗や違和感はなくなりました?
葭葉:それも最近落ち着いたというか。子どもも大沼に行けば、パド・ミュゼで馬のお世話をして遊んだり、私が通ってた保育園に行って裸足で泥遊びしたりとか楽しんでて、それはもちろんいい経験だし、こっちの友達のことも大好きなので、一緒にお祭りに参加したり、大沼にはない下町文化を体感したりと、どっちも楽しんでもらえたらいいなって思っています。
私自身は都会生活ばかりだと、あまり気持ちよく過ごせないので、「東京でも田舎を諦めない」という意識は持っていますね。田舎の人たちが日常的にやってる味噌作りとか、そういうのって別に東京だからできないってこともないし、そういうのをひとつずつやっていったら、けっこう面白い暮らしができるかなって。逆に田舎にないことも多いので、美術館だったり、人との繋がりだったり、それはそれでこっちで楽しんでいけばいいかなと思っています。
 
━━「東京でも田舎を諦めない」って、都会か田舎かっていう議論に対するひとつの答えかもしれませんね。
葭葉:大沼でカヌーハウスをやってる方がいて、その人が東京の大学に通ってるときに、隅田川でカヌーに乗っていたらしいんですよね。そのまま、神田の方に行くと女の人が三味線を弾いている音が聞こえてくるという話をしてて、「それ、いいな!」と思ってカヌーを買ったんですよ。清澄白河の辺りって、たくさん川があるので、春になると旦那と子どもを乗せて、カヤックで遊んだりしてます(笑)。
 
━━えー! そんなことできるんですか!
葭葉:できるんですよ! 区に言って、水路マップみたいなのをもらって(笑)。春には川ぞいに桜がバーッと咲くので、それを下から見ながら、目の前にスカイツリーみたいな。そういう楽しみ方を無理やりするようになったら、東京の暮らしも楽しくなってきました。ただ、水はめちゃくちゃ汚いんですけどね(笑)。そういうのを見て、自然環境をよくしたいなという気持ちが新たに芽生えたりして。
 
━━何かやろうと思うと、まず場所のことを考えてしまいますけど、場所を理由に諦めちゃうってのは確かにもったいないですよね。少なくとも、可能性を探してみる価値はあるでしょうし。
葭葉:けっこう固定概念に囚われちゃうと身動きがとりにくくなりますよね。何事も発想の転換が大切かなとは思っています。
  
 

MY FAVORITE SPOT

 
大沼キャンプ場 

「ウエディングのパーティ会場として使用した場所です。小さい頃から行ってて、みんなで遊覧船に乗ったり、お弁当食べたりしてた思い出の場所ですね。今でも帰るとピクニックシート持って行きます!」

 
 
 
日暮山

「地元の人がよく仕事前に登ってる山です。ちょうど大沼町を見渡せるくらいの高さで、冬だから薪ストーブの煙が上がっていくのが見えるんですよ。◯◯さんの家、起きたねーとか言いながら、コーヒーを飲んだりしています」

 
ちゃっぷ林館への道 

「駒ヶ岳の方に『ちゃっぷ林館』っていう温泉があるんですけど、そこに行く途中の道が好きで。白樺に囲まれてて、パーっと丘が現れるんです。冬は木に雪が積もってて、真っ白なトンネルを車で行くような、夏は緑が生い茂っていて、緑のトンネルを行くような景色が見れます」