函館工業高校を卒業後、札幌の専門学校、東京の会社を経て、13年ぶりに函館に戻ってきた谷藤崇司さん。地元で独立し、リフォームやリノベーションを中心とした内装業務を請け負う傍らで、友人の仕事や実家の農業を手伝う生活を送っているといいます。そうした暮らしについて、「仕事も、そうじゃない部分も、全部が生活の一部って感じで楽しいです」と語る谷藤さんは、移住してから「生活の細部にこだわりを持てるようになりました」と話してくれました。
建築やデザインについて学んでいく中で〝地域〟〝空間〟〝暮らし〟といったテーマを追求するようになったという谷藤さんに、函館での仕事や子育て、働く中で見つけた内装業の本質、おじいさんから受け継いだクラフトマンスピリッツ、さらには銭亀沢村長を目指す展望(?)などについて語っていただきました。
取材・文章:阿部 光平、撮影:妹尾 佳、イラスト:阿部 麻美 公開日:2016年3月11日
迷いの中で見つけた〝外と内を繋ぐ〟というテーマ
━━そもそも谷藤さんが、建築に興味関心を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?
谷藤:中学校の時に『スターウォーズ エピソードⅠ』を観て、「宇宙のモノってかっこいいな!」と思ったんですよ。特に乗り物とか、そこの内装とか。
━━その時から内装に目がいったんですね。
谷藤:内装というか、それを含めて、宇宙関連のデザインをしたいなと思ったんですよ。それで、「宇宙といえばロボットだろ!」と思って、高専を受けたんですけど、落ちて、結局は函館工業高校の情報技術科に入ったんですよ。そこで、建築デザイン的なことにも興味を持つようになって。
ちょうど進路とかを考えている時に、札幌の専門学校に通ってた親戚から、スピカの図面を見せてもらう機会があったんですよね。その人が、設計を担当していて。
━━そういえば、スピカってちょっとスターウォーズっぽいデザインですよね(笑)。
谷藤:そうなんですよ! ドーム型で、ガラス張りで、ちょっと宇宙っぽいなって思って。その時に、僕もこういう仕事がしたいから、同じ専門学校に行こうと決めたんです。
━━なるほど。その専門学校では、どんな勉強をされてたんですか?
谷藤:僕が行ってたのはインテリアデザイン科ってとこだったんですけど、図面を引いたり、グラフィックやデッサンの勉強をしていました。デザインに対する考え方とか、コンセプトの持ち方とか、アプローチの方法っていうところを教わりましたね。
━━最近でいう、デザイン思考というか。問題を解消するためにどういうデザインのアプローチが適切かっていうような勉強ですかね。その間は、ずっと建築とか、内装関係の仕事に就こうと思われてたんですか? ブレることなく?
谷藤:いや、果てしなくブレてましたね(笑)。専門学校に行くまでは、大きく〝デザイン〟ってものに興味があったんですけど、いざ授業が始まってみると、デザインの種類の多さみたいなのに直面して。
例えば、住宅だったら木造とコンクリート造とか種類があるように、家具のデザインをする人もいれば、プロダクトをやる人もいたり、リフォームだったりリノベーションのデザインだったり、とにかく多様なんです。その先に選ぶ仕事も現場を管理するものだったり、実際に作る人だったりと多岐に渡っていたので。当時は、いろいろ迷いながら、かっこいい家具が出てくる映画ばかり観てました。
━━かっこいい家具が出てくる映画って、例えばどういう作品ですか?
谷藤:『2001年宇宙の旅』とか、『ブレードランナー』とか、SFっぽい映画ばっかりなんですけど。SF作品に出てくるような家具がすごく好きだったんですよね。
なので、やっぱり将来的にはインテリアの仕事に就きたいなーって思ってたんですけど、ちょうど、その頃にイサム・ノグチが設計したモエレ沼公園ってのができて。その影響で、ランドスケープデザインってのにも興味が出てきたんですよね。
━━街の景観デザインみたいな?
谷藤:そうです、そうです。景観とか、公園とかもそうなんですけど、なんかその、ランドスケープデザインってのに宇宙的な魅力を感じちゃって。それで、専門学校の時は造園屋さんでバイトやったりとかもしてました。そこの親方がなかなか変わってて、「造園は宇宙だ」みたいなことをいう人だったんですよ。
━━具体的には、どういう風に変わった人だったんですか?
谷藤:昼に、事務所でご飯を作ってくれるんですけど、メニューがカップラーメンとサンマの塩焼きと、トーストだったんですよね(笑)。毎回、絶対それだったんですよ。
━━むちゃくちゃな組み合わせに見えますけどね(笑)。
谷藤:しかも、それをピンクフロイドのDVDを見ながら食べるっていう(笑)。それだけでも結構シュールなんですけど、食べ終わって、ミュージックビデオも見終わった後に、親方がおもむろに、ギターを弾きだすんですよ(笑)。
━━(笑)。
谷藤:その時に「タカシ君、ドラムやってたんならリズムやってよ」って言われて。僕は、タンバリンを膝の上に置いて叩くっていう、そういう日常がかなり衝撃的で(笑)。しかも、その親方、ひとつひとつの庭を作るときに、全部、音楽でイメージをつけていくんですよ。今回はロック、今回はフォークとか、今回はクラシックとかって感じで。それで、完成した庭で一回ギターを弾くっていうこだわりを持ってる人で(笑)。
━━なんというか、アーティストですねー。
谷藤:そうなんですよ。本当は、その人のところで働きたかったんですけど、「今、インテリアの勉強をしてるんだから、すぐエクステリア(※1)の方に目を向けなくても、もうちょっとインテリアをやってから、それでもやりたかったら造園とかの方に来てみたらいいんじゃない?」って言われて。せっかくどっちも学べる環境にあるんだから、その中間の〝外と内を繋ぐような仕事〟をしなさいって言われたんですよね。その話にすごく納得できたので、最終的には内装の仕事を選んで就職したんです。
━━その出会いが、空間との向き合い方みたいなことを考えるきっかけになったんですね。だからこそ、卒論では空間と暮らしということを考えてみようと。
谷藤:そうですね。〝町〟と〝暮らし〟ということで、自分なりに〝外と内を繋ぐこと〟テーマを深掘りしてみたんです。
━━谷藤さんにとって、外と内を繋ぐためのキーワードが〝生活〟というわけですね。
谷藤:はい。それからは、ずっと〝生活〟をテーマにしています。
(※1)エクステリア:インテリアの対義語で、製品や建築などの外装のことを指す。