昨年11月に函館市谷地頭町でカフェ『classic』をオープンさせた近藤伸さん。東京で生まれ育った彼は、「小さい頃からずっと東京が嫌いだった」といいます。東京で消費されているものが、東京で生産されたものではないことに〝違和感〟を覚えた近藤さんは、都内で10年間経営していた飲食店を閉め、函館に移住。地域の食材や環境と向き合いながら、〝違和感〟のない暮らしを堪能しています。外の街から移住してきたからこそ見えた函館の魅力や物足りなさ、東京での暮らしとの違い、そして街と店の関係性などを語っていただきました。
取材・文章:阿部 光平、撮影:妹尾 佳、イラスト:阿部 麻美 公開日:2016年1月8日
「景色は変えず、意識を変えたい」
━━小さい頃は東京が嫌だっていうお話しされてたじゃないですか。一度離れてみて、今、東京のことはどのように見えていますか?
近藤:離れてみても違和感は消えないですね。地産地消じゃないですけど、東京ってその土地で作ったもので廻ってないわけじゃないですか。食料とか、エネルギーとかにしても。そういうのは本当に不自然だなと思うんで、暮らすのはもう無理ですね。本当は人間が生きられるはずがない環境で暮らしている感じがするというか。少なくとも、自分には合わないですね。
━━その最たる要因は自然に寄り添ってないっていう部分なんですかね。
近藤:そうですね。
━━一方で、函館に移住してみた印象はいかがですか?
近藤:やっぱり海と山が近いのがすごく良いですね。
━━小さい頃から抱いていた違和感を払拭できた感じですかね。
近藤:はい。やっぱ自然が身近にあるっていうのは本当に大きくて。あとは背の高い建物が少ないんですよ。だから本当に見通しが良くて、空の模様や、雲の流れも面白かったりして、景色を見ていて飽きないですね。
━━反対に、函館に来てちょっと物足りなさとか、不便さを感じる部分ってあります?
近藤:文化に触れることがあんまり無いことですかね。美術館やライブに行ったりとか。東京だとカフェライブとかも身近にあったりして、生音に触れる機会が多かったんですけど、こっちに来てからはそういうのもあんまりないですね。
全体的にセンスが良いものに触れられる機会は少ないと思います。〝手作り市〟みたいな域を超えないイベントが多いような気がしますね。
━━『classic』では、ライブとかもやっていく予定なんですか?
近藤:東京で知り合った素敵なアーティストがいるので、ぜひ来てもらってライブとかしたいなとは思ってます。若い子に刺激を与えてあげたいっていう気持ちがあるので。
━━函館の人と触れ合ってみて、人の印象はいかがですか?
近藤:ん~。現状では、函館の人よりも、移住してきた人達との繋がりの方が多くて、純函館人との繋がりはなかったりするんですよね。
━━閉鎖的な部分があるんですかね、函館の人達に。
近藤:函館生まれの人ってあんまり西部地区の方にいないじゃないですか。だから、単純に物理的に出会えないということだと思います。
━━逆に移住してきた方達のコミュニティーというのは、けっこう密接なんですか?
近藤:そうですね、やっぱり1人と繋がると、どんどんどんどん繋がっていきますね。ただ、移住っていっても、奥さんか旦那さんのどちらかが函館出身っていう人が多いですけど。
━━東京出身の人だと、けっこう雪とかに苦労するのかなぁと思うんですけど、そのあたりはどうですか?
近藤:いや、前の冬は雪が少なかったってのもあるんですけど、全然困らなかったですね。車の運転がちょっと怖かったくらいで。
━━生活の拠点を函館に移して、物価や生活費の違いを感じることはあります?
近藤:函館の方が意外と高い印象ですね。給料に対する家賃の比率も高いなって思います。
東京の商店街とかを見てるとわかると思いますけど、野菜とかバカみたいに安いんですよね。激安スーパーとかもたくさんあるんで、北海道の方が物価は高いなと感じます。あと、ランチとかも、東京だと700円以下のメニューとか普通にあるじゃないですか。だけど、こっちだと1200円くらいのお店が多いですね。
━━競合が少ないってのもあるんですかね。そういう環境下でお店を経営していくにあたって今後のヴィジョンなどあれば聞かせてください。
近藤:普通に暮らしてると、車で大きなスーパーに行って、ラッキーピエロとか函太郎でご飯食べるって流れになっちゃうと思うんですよ。そういう暮らしだと、人との交流はあまりなくなるので『classic』は人と人とが触れ合える場所にしていきたいですね。飲食店の究極系はスナックだと思ってるんで。
━━スナックかぁ。人が集まって、交流が生まれる場所という意味ですか?
近藤:そうですね。やっぱり、人が集える場所って大事なので、スナックは飲食店の究極系だと思います。うちはカラオケ置かないですけどね(笑)。
あとは、この場所で力を溜めて、近くで雑貨屋とかもやりたいと思ってます。自分で店を増やしていけば人の流れができて、周囲が面白くなっていけば、他にもお店をやる人が増えたりすると思うので。
━━カフェ作りに留まらず、色々なことにも手を出して、さびれゆく街の景色を変えたいと。
近藤:景色は変えたくないんですけど、意識は変えていきたいですね。
━━具体的にはどういった意識ですか?
近藤:なんか札幌の人は何も意識してないみたいなんですけど、函館の人は札幌のことを毛嫌いしてるっぽい感じがして。誰に聞いても。
━━ちょっとした対抗意識みたいのはあるかもしれませんね。
近藤:例えばミュージシャンが札幌に来た時に、そのまま函館にも立ち寄ってくれてもいいはずなんですけど、そういうパイプとかもないみたいで。そういうのもあって、函館の音楽シーンが廃れていっちゃうみたい事情もあるみたいなんですけど。それって勿体無いなと思って。
南には青森があって、北には札幌があって、ちょうど繋げる位置にあるのに、閉鎖してるのは勿体ないなーって。そういう意識が変わっていけばなと思っています。
━━それはやっぱり、外の視点を持ってる人だからこその意見かもしれないですね。
近藤:そうですかね。少なくとも僕はそういう視点を大切にしていきたいなと思っています。
MY FAVORITE SPOT
とにかく長閑で、ノスタルジックな雰囲気なので、散歩するのがとても気持ちいいです。
一人でぼーっとしたい時にはここに行きます。夕陽の時間は本当に最高です。
おいしい食事に、素晴らしい景色と素敵な空間。函館で一番好きな、そして尊敬しているお店です。