■生き方を決定付けた建築との運命的な出会い
━━最初に、今のお仕事について教えて下さい。
加藤:ゼネコンの派遣社員として、ホテルの設計の仕事に携わっています。まだ在籍して1年くらいで、プロジェクトを任せてもらえるような立場ではないんですけど、設計補助というかたちでプロジェクトに関わらせて頂いています。
━━ゼネコンって、具体的にはどういう仕事を請け負う会社組織なんですか?
加藤:ゼネコンっていうのは、『ゼネラルコントラクター』の略称で、日本語では「総合建設業」と訳されます。
設計事務所が施工を別の会社に発注するのに対して、ゼネコンは設計から施工まで全部まとめて自分の会社でとりまとめをするんです。規模の大きな建物はゼネコンがやることが多いですね。
━━その中で加藤さんは設計補助として、どのような業務を担当しているのでしょうか?
加藤:施主への提案資料を作ったり、確認申請の書類作成などをしています。確認申請というのは、建築を建てるときに、役所に出さなきゃならない資料というのがあるんですけど、「建築の法規をちゃんとクリアしてますよ。工事に着手していいですか?」という申請を提出して、許可が下りて、そこではじめて着工できるという流れなんです。
━━もともと、そういう勉強をされていたんですか?
加藤:学生のときは、実務的なことはほぼ勉強はしてないですね。僕が大学で専攻していたのは、〝意匠設計〟といって、ざっくり言うと、見た目のデザインです。大学と大学院で意匠設計を専攻していて、最初はアトリエ設計事務所に入りました。
━━アトリエ設計事務所とは?
加藤:設計事務所には、〝組織設計〟といって会社組織で設計を担う事務所と、〝アトリエ系〟といって作家が設計を担う事務所があるんですよ。前者は〝設計士〟、後者は〝建築家〟というイメージです。
設計士と建築家の違いっていうのは、けっこう微妙なんですけど、思想を持って設計をして、社会的にあるべき形というのを提案して作り上げていく人が、建築家と呼ばれています。図面を書いて、形を立ち上げるって部分は一緒なんですけど、誤解を恐れずに言うと、建築家はアーティストに近い存在だと思います。
━━加藤さんは、建築家を目指してアトリエ設計事務所に入ったわけですよね。それが、なぜゼネコンに転職することになったのですか? 勝手なイメージですけど、ゼネコンっていうのは思想や哲学よりも、施主の要望に合わせて建物を作っていくといった印象があるんですが。
加藤:確かにゼネコンというのは、建築家のように思想をガンガン押し出して建物を作る組織ではないです。
だから、僕が目指している建築家の仕事と、ゼネコンでやっていることってけっこう違うんですよ。ただ、建築を建てていく上での業務としては重なる部分がかなりあるので、そういう業務的なことを今の職場で身につけようと思いました。思想的な部分は自分で本とかを読んで身につければいいかなと。それを合致させて、自分が思う建築家像に近づいていきたいなと思っています。
━━建築家としての思想的な部分を学ぶためにゼネコンに入ったわけではなく、実務的な仕事を学ぶために転職したわけですね。
加藤:そうですね。ちょっと話が戻るんですけど、ゼネコンに入る前は内装デザインをする会社にいたんです。そこは、改修がメインだったので、今やっている仕事とは違って、そこまで細かい図面を必要としなかったんですよ。イメージスケッチやパースを作って、お客さんとコミュニケーションをとって、形にしていくという感じだったので、今やってるような細かい法規とかは、あんまり関係なかったんですよね。
だから、ゼネコンに入ったのは、将来的に独立してやっていくための実務的なスキルが身についてないなと思ったのが一番の理由です。
━━建築とは、どんなタイミング、きっかけで出会ったのでしょうか?
加藤:小学生の頃に、なぜか父親が図書館からフランク・ロイド・ライトっていう有名な建築家の作品集を借りてきて、家に置いてあったんですよ。それをたまたま見てたら、『落水荘』っていう建築が載っていて。その名の通り、川が流れていて、それをまたいで家が建ってるという住宅なんですけど、それを見た瞬間に「あ、俺もうコレでいきたいな」って思いました。
━━「こういう家に住みたいな」ではなく、「こういう建物を作りたいな」と思ったんですか?
加藤:いや、もっと漠然と「こういう仕事がしたいな」って。
━━その本が、まさに運命の出会いだったわけですね。お父さんは建築関係の仕事をされている方なんですか?
加藤:いや、米屋です(笑)。だけど、実はうちの父って画家になりたかったらしいんですよ。だから、建築の本だけじゃなくて、いろんなアーティストの本が家にあったり、音楽とかもけっこうコアなものがあったりしたんですよね。今思うと、意図的に子どもの周りに、そういう本や音楽を置いていたんだろうなとは思います。