東京で〝チャイニーズチキン〟が食べられるお店!?


━━最初に今のお仕事について聞かせてください。こちらの『kirin』というカフェは、どのようなお店なのでしょうか?
齊藤:三軒茶屋で、函館の食材を使った料理や、お酒を出しているお店です。自分の家に遊びに来る大切な友人を、お迎えするような気持ちでやってます。
「お客様、いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりしていってください」って感じではなくて、姪っ子とかに対して「いやぁ、◯◯ちゃん、遠くからよく来たねー」っていうような距離感を意識してますね。最大限のおもてなしって、そういうことなんじゃないかなって思っているので。

━━お店は、オープンしてから何年目になるんですか?
齊藤:6年目です。今年の6月で、まる6年。

━━三茶に店を出そうと思った決め手、コダワリなどがあれば教えてください。
齊藤:大学生の頃からお芝居をやってたんですけど、そのときに三茶のバーでバイトしてたんですよ。そこには、東京っぽい大人達というか、いわゆる文化人の方や音楽関係の方、役者さんとかがたくさん来てたんです。そういう、田舎にはいないタイプの人がたくさんいる街だなと思っていて、自分のお店をやるんだったら、あそこでやってみたいなという気持ちがあったんですよ。
あとは、自宅も三軒茶屋だったんで、妻とか娘が来やすい場所ってのも、物件を探すときの基準でしたね。妻が割と絡んでくるようなお店にしたいって思いもあったので。

━━奥さんが絡んでくるようなお店といいますと?
齊藤:妻が、アクセサリーをメインにしたブランドをやっていて、その世界観が好きだったんです。自分のお店を一から始めるなら、彼女が作った世界観の中で働きたいなと思っていて。なので、内装や外装、お店の名前も含めて、そういうのはすべて妻にお願いしました。
僕、何軒か飲食店で働いてきて、デザイナーさんとオーナーさんの意見が食い違うってシーンを何度も見てきたんですよ。オーナーさんのセンスが良い場合はいいんですけど、オーナーさんがセンス悪くて、デザイナーさんがセンス良いっていう場合はすごく問題で。デザイナーさんの提案通りにやっていれば、ある程度形になったのに、オーナーさんの意見が入ったがためにグチャグチャになるってことがあるんです。
僕は妻のセンスを信じていたので、彼女に全部任せてやったほうが絶対にまとまるだろうなと思ったんですよ。その世界観がしっかりしてれば、中で多少汗臭い奴が働いてても、鬱陶しくはならないだろうって(笑)。

━━確かに、お店の雰囲気って、「また来よう」と思うかどうかを分ける重要な要素ですよね。ちなみに、よく聞かれるとは思うんですけど、『kirin』という店名の由来は何なんですか?
齊藤:後付けの意味は「首を長くして待ってます」って感じなんですけど、本当の理由は別で。僕も最初はビックリしたんですけど、妻から「お店の名前決まったよ」って電話がかかってきて、「あ、ほんと!何にするの?」って聞いたら「キリン」って言われて。「キリン? いや、俺、サッポロビールを使うって話はしてたよね?」ってなって(笑)。キリンって言われて、最初に思い浮かんだのがキリンビールだったんですよ。
それで、「なんでキリンなの?」って聞いたら、「いや、好きだから。えっ、ダメ?」って逆に聞かれちゃって。「覚えやすいし、かわいくない? 嫌だったらいいけど」って言われて、「いや、それでいこう」ってことになったんです。だから、本当の由来としては、「妻がキリンが好きだったから」ってことですね(笑)。

━━逆に予想外な由来でした(笑)。今のお話の中に、最初からサッポロビールを使うことは決まってたというのがありましたが、それはやはり北海道の物を使いたいという思いで?
齊藤:そうです、そうです。自己満足かもしれないですけど、三軒茶屋でやりながらも北海道と関わりをもって、多少なりとも地元・函館への貢献になったり、函館のイメージのアップに繋がればいいなと思ってたので。食材も、函館のものとかを仕入れるようにしています。



━━魚介類を使ったメニューも多いですが、これも函館から仕入れているんですか?
齊藤:魚介類は、函館産の新鮮なものを出したいなって思っていて、店を始めるときに、函館漁協の営業部長さんに「東京でこんな店をやろうと思ってて、函館から食材を仕入れたいから、どういうことができるかお話聞きたい」って連絡をしたんです。それで、実際に行ったんですけど、「魚を送る業者は紹介できるけど、普通に探すのと一緒だよ」みたいな感じで言われちゃって。僕が提示した条件が、ちょっと特殊だったのもあって。

━━どういう条件で探していたんですか?
齊藤:いわゆる〝雑魚〟を送ってくれないかって話をしたんです。不味いわけじゃないけど調理が面倒臭い魚とか、数が1匹、2匹しか獲れなくて商品としては流通させにくいものだとか、そういうのを箱にダーっと詰めて、送ってくれないかって。残念ながら、そういう魚には値段もつけられないし、手間もかかるから難しいって話になっちゃったんですけど。

━━そういう魚を仕入れようと思った理由は何だったのでしょうか?
齊藤:僕、実家がフェリー乗り場の近くだったんですけど、子どもの頃、よく釣りをしてたんですよ。函館ってハゼとかいっぱい釣れるじゃないですか。でも、ハゼって、家に持って帰っても、母親に「ハゼなんか持ってきたって、どーすんのさ!」とか言われちゃうんですよ。だから、釣れたとしても「やんや、ハゼか」って感じで、地面に投げつけたりしてたんです。
だけど、フェリーから降りてきた人達が、僕ら小学生がハゼを投げつけてるのを見て「ねぇ、ぼく。これハゼじゃないの? 東京では高級な天ぷら屋さんで出す魚だよ。食べないの?」とかって言うんですよね。それがすごく記憶に残ってて。
場所によっては需要がなくても、違う場所にいけば需要があるものって意外とあって、そういうのを上手く活用したいなという思いがあったんです。実際、「どうしようもねえ雑魚を東京でありがたそうに食ってんだよ」みたいな話って、けっこうあったりするんですよね。

━━なるほどー。そういうミスマッチによって無駄になっているものって、案外多いんですね。
齊藤:それで、魚の仕入れをどうしようかなって思ってたときに、フェイスブックを見てたら、「知り合いかもしれません」って項目に、函館の魚屋二代目って人が出てきたんですよ。プロフィールを見てみたら、僕と同じ稜北高校出身の人で。学年とかは全然違ったんですけど、たまたま僕が教育実習でいってた時に生徒だった世代の人だったので、すぐに連絡を取って、仕入れをお願いすることになったんです。なので、魚は今も函館のマルショウ小西鮮魚店から直送してもらっています。

━━おぉ、運命的な出会いですね! 実際、函館の食材を求めてくるお客さんは多いんですか?
齊藤:函館出身のお客さんは多いですね。うちの看板メニューのひとつに『kirinチキン南蛮』ってのがあるんですけど、これはもともと「チャイニーズチキンが食べたい」っていう函館出身のお客さんのリクエストに応えて作ったものだったんですよ。「そんなに食べたいなら、作ってあげるよ。味覚えてるから」って(笑)。
ただ、まるパクリは嫌だったので、ちょっとアレンジはしてるんですけどね。ハンバーガーショップではないので、おつまみにもなるように黒胡椒と、ガーリックをきかせようとか。それが、函館出身のお客さんだけじゃなく、東京のお客さんにも好評で、2年目からはお店のメニューに加えました。
しかも、僕、その話を王さんにしたんですよ。

━━王さんって、ラッキーピエロのオーナーの?
齊藤:そうです、そうです。去年の夏に、峠下のお店に行ったら王さんがいて。「おぉー、王さんだ!」と思って、声をかけたんですよ。「僕、東京で飲食店をやってて、函館の人でチャイニーズチキンを食べたいって言ってる人に、自分が思ってる似たようなチキンを出して、今はそれがお店の看板メニューになってるんですよ」って。そしたら、王さんがニカーって笑って、「いいですねー!頑張ってください!」って、握手までしてくれて。

━━おぉー!すごい!器がでかいなー!
齊藤:そうなんですよ。嬉しかったですねー、あれは!





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