【ローカルマーケット in 大町改良ひろば レポート】

2021年10月23日、24日の2日間、大町にある改良住宅横の空き地で『ローカルマーケット in 大町改良ひろば』が開催されました。
このイベントは『はこだて西部まちづくRe-design』と『蒲生商事』が取り組んだ空き地再生の試みで、函館市内でお店を営んだり、創作活動をしている方々がブースを出店。天然酵母パン、焼き菓子、花、古着、イラスト、フード、それに無印良品の移動販売車もやってきて、小さな街のような賑わいが生まれました。
普段は静かな空き地に700人ものお客さんが集まった2日間の模様をお届けします。
 

 

何もない空き地で開催されるマーケット
 

 
開催の前日、設営準備中の会場へ行ってみると、そこは本当に何もない空き地だった。会場の隅には折り畳みテーブルとテントの骨組みだけが置かれていて、全体的にガランとしている。その一角でスタッフの方々が、砂利に広げた段ボールの上でアルコール消毒の機材を組み立てていた。
 
その様子は一見寂しげで、「本当に明日からマーケットが開催されるんだろうか?」と思ってしまうような雰囲気。しかし、同時に「本当にゼロからイベントを作るんだな」という期待感が高まる光景でもあった。




 
この場所には、もともと警察の官舎が建っていたそうだ。しかし、今年の夏頃に建物が取り壊され、空き地になったのだという。
 
時を同じくして、隣接する大町改良住宅の1階店舗群ではコーヒーショップ、古着屋、ハンバーガー店などの新規店が次々とオープン。今までになかった新しい人の動きが生まれ始めている。




これらの店舗の仲介をしたのは『蒲生商事』の常務取締役で、西部地区の街並みや暮らしを守る活動を続けている『箱バル不動産』のメンバーでもある蒲生寛之さんだ。


 
彼は大町改良住宅店舗の新規オープンラッシュを、西部地区に新たな人の流れを生むまたとない好機と捉え、『はこだて西部まちづくRe-design』と共に隣接する空き地の利活用を計画。その第一歩として企画されたのが、『ローカルマーケットin大町改良ひろば』だった。
 
「空き店舗が多かった大町改良住宅の1階に新しい人たちが入ってくるのを見てて、隣の空き地を活用したらもっと面白いことができるんじゃないかと思ったんです。今回は、この場所を知ってもらって、楽しんでもらおうという実験的なイベントですが、西部地区での楽しい暮らしを想像してもらえる2日間にできたらと思っています」
 
市内でも特に少子高齢化が進んでいる西部地区、それも何もない空き地で開催される2日間のローカルマーケット。小さく静かに動き出したプロジェクトは、函館に新たな風を吹かせてくれる予感に満ちていた。


 
 
DAY1
 
 

気持ちのいい秋晴れに恵まれたマーケット初日。時々強い風が吹くものの、雨の気配はなく、午前中から着々と会場設営が進んでいく。




 
会場内に2つある出入り口には、手作りのゲートが登場した。外から入ってくるときには『GATE』という文字が掲げられており、中から出ていくときにはそれぞれ『大町改良住宅』と『大黒通』という文字が目に入る。


 
この場所は空き地であると同時に、最近盛り上がりをみせている改良住宅のテナントと、かつて函館屈指の商店街だったという大黒通りを繋ぐゲートでもあるのだ。
 
「ここが人の集まる場所になれば、もっと活発な流れが生まれて、このエリアのよさを実感してもらえる機会も増えると思うんですよね」
 
蒲生さんは、そんな展望も聞かせてくれた。



 
開場の1時間ほど前になると、出店者の方が続々と集まってきて会場が活気づいていく。さっきまでガランとしていた空き地の雰囲気とはまるで別物だ。やはり場の空気を作るのは人なのだと実感する。
 
出店者同士が「この前はどうも!」「楽しみだね!今日もよろしく!」なんて会話をしている様子には、ローカルならではのフレンドリーな雰囲気が滲み出ていた。各ブースに商品が並んでいくのを見て、ようやくマーケットが始まるという実感が確かなものになる。



 
予定通り12時にオープンすると、会場はあっという間に大盛況となった。SNSやポスターを見て来てくれたというお客さんだけでなく、たまたま会場の前を通りかかった近所の方が「何やってるの?」という感じで立ち寄って、買い物をしていく姿もたくさん見かけた。
 
会場のあちこちから「おー!久しぶり!」といった声が聞こえてくる。コロナ禍で人と会えない期間が続き、こうしたイベントに来るのが久しぶりというお客さんも多かったようだ。
 
久々の再会を喜んだり、子どもの成長に驚いたり、友達にパートナーを紹介したり、そういうことが自然と起きていて、その場にいるだけで不思議な高揚感があった。コミュニケーションの場が次々とオンライン上に置き換えられるなか、人が集まれる場所が持つ重要性を改めて感じさせられる。



 
宇賀浦町にアトリエを構えるレディース古着のビンテージセレクトショップ『amber vintage』のブースには、これからの季節に活躍しそうなニットや、一点モノのアクセサリーがずらり。若い人だけでなく、子どもからお年寄りまでが熱心に品定めをしていた。
 
オーナーさん曰く、「これまでいろんな場所で出店させてもらいましたが、今日は初めましてのお客さんが多いですね。ご近所の方も覗きに来てくれたりして、いろんな人が混ざりながら新しい出会いが生まれる場所だなと感じてます」とのこと。出店者の方々にとっても新たな出会いの場になっている様子だ。



改良住宅1階のテナントには、トレンドを押さえたレディースアイテムとユーロミリタリーなどの古着を扱う『9.』もあり、『amber vintage』と行き来しながら秋冬モノの買い物を楽しんでいる方々もいた。
 

 
元町にお店を構える『焼菓子ホタル』は、スコーンやクッキーを中心に出店。会場で買った温かい飲み物と共に、ベンチに座って食べている人たちの姿も多かった。
 
この日、用意してきた焼き菓子は、なんと開場から1時間で完売。これには店主の方も驚いたようで、「風が強かったので心配だったんですけど、お客さんがいっぱい来てくれて嬉しかったです。最近の大町には、とってもいいお店がたくさんできてますよね。西部地区は若い人が少ないけど、そういうお店が増えると、いろんな世代の人たちが集まれるからいいなと思いました」と語ってくれた。



改良住宅の1階にできたばかりの『BURGER SERVICE WALDEN』も大盛況。お昼時ということもあって行列ができていた。会場の中と外を行き来する人の流れを感じる。
 

 
函館で移動販売車を出すのは初の試みだという『無印良品』。人気のレトルトカレーや不揃いバウムなどの食料品のほか、化粧品やクリーナーといった日用品も充実していて人気を博していた。見慣れた商品が屋外に並ぶ様子はとても新鮮で、イベントならではの特別感があった。
 
スタッフの方によると、「同じ道南の森町ではレトルトカレーなど、保存できるものが人気なんですけど、函館では日用品がよく売れています。『ちょうど、これが足りなくて』みたいなお客様がたくさんいらっしゃって」とのこと。西部地区から五稜郭の無印良品まではやや距離があるので、地元の方たちにとってはいつも使っている日用品を近所で買えるいい機会になったようだ。「このエリアならではの需要を念頭に入れながら、地域の方と繋がれるような移動販売をしていきたいですね」とも話してくれた。
 

 
お客さんのなかには、昔、この辺りに住んでいたという方にもいて、「何十年も前の話ですけど、改良住宅の1階には八百屋さんや魚屋さんがあったです。でも、どんどん人が少なくなって、お店もなくなって、寂しくなったなと思ってたら、最近いろんなお店が入ってて。不思議なこともあるんだなと思ってたんですよ(笑)。やっぱり若い人が増えるのは嬉しいですね」というお話を聞かせてくれた。
 
こういうエピソードを伺うと、今見えている景色だけではわからない、いろんな歴史が刻まれた場所なんだという実感がグッと強くなる。そうした歴史を踏まえながら、ここがどんな場所になっていくのかに想いを巡らせる人が増えることは、きっと街の明るい未来に繋がっているはずだ。
 

 
この時期の函館はもう日が短く、16時過ぎには空が夕焼けに染まり始めた。ここから日没まではあっという間だ。
 
初日を終えた出店者の方々が、それぞれに疲れや充実感を浮かべながら帰路に着く。備品や什器を積んだ車が1台、また1台と立ち去ると、会場はまた元の静かな空き地に戻った。


 
 
 
DAY2
 
 
 

昨日よりも気温が上がり、厄介な風も落ちついて、絶好のマーケット日和となった2日目。この日も会場は、朝からたくさんのお客さんで賑わった。

 
 

会場内を歩いていると、元町にある天然酵母のパン店『tombolo』のバックを持っている方を発見。札幌から移住してきてすぐにtomboloのファンになり、定期的に足を運んでいるという。
「私はコロナ禍に引っ越してきたので、函館に来てからはほとんど人が集まるようなイベントがなかったんですよ。でも、こういうイベントがあると、いろんなお店を知れていいですね。西部地区は寄り道が楽しい街なので、また何かあったら遊びに来たいです!」

 

単発的な盛り上がりではなく、継続的な楽しみを作るためにも、この空き地が果たせる役割は大きいのではないだろうか。いろいろな方のお話を聞いていくうちに、そういう気持ちがどんどん膨らんでいった。





 

tomboloのスタッフさんも、「初めての場所だったので不安もあったんですけど、知り合いの方も、初めてのお客さんもたくさん来ていただきました。新しいお客さんと出会う場にもなってよかったです」とホッとしたような表情を浮かべていた。

 

初めての場所にも来てくれる常連さんの安心感と、初めての場所だからこそ出会えたお客さんとの新鮮な会話。それが会場のいたるところで混ざり合っている様子は、まさにローカルマーケットといった雰囲気だった。

 
 
2日間のイベントを通して、会場では花を持って歩いている人の姿が目立った。それはとても美しい光景で、会場の雰囲気を鮮やかに彩っていた。
 
  

そんな光景を作り出してくれたのは、流しの花屋として市内各地で出店をしている『#fff』だ。オーナーさんは、「狙ってたわけじゃないんですけど、『お花を持ってる人を見て来ました』という方もいたので宣伝効果があったみたいですね(笑)」と照れ笑い。男性のお客さんも多かったようで、「場所が変われば人も変わるっていうのが、すごく面白い経験でした。また新たにお花の可能性を感じました」と笑顔で話してくれた。


 

ブースにいろいろな種類の花が並んでいる様子を見て、近所のおばあちゃんが椿の種を持って来てくれるという一幕もあったそうだ。「試しに植えてごらん。きっとあなたならできるでしょ!」とプレゼントしてくれたという。

 

出店者とお客さんの境界線が緩やかに溶け合って、新しい関係性が芽生えていくようなエピソードに、今回のイベントが目指していた理想の一端を見た気がした。


 

会場を彩ったといえば、『flaky-lazy』の存在も忘れてはいけない。写真、映像、ラフスケッチなど、ジャンルを超えてエッジの効いた作品を作り続けていて、今回がイベント初出展。自作のTシャツや絵の販売を行っていた。

 

「今までに作品の展示はしたことがあったんですけど、出店して作品を売るのは初めてでした。いろんな人に見てもらえて、反応もよかったので嬉しいです」

 

地元の若いアーティストがローカルマーケットで作品を販売する。その出店はイベントの多様性を確実に拡張している。作家にとっても主催者にとっても、未知なる可能性を切り拓くためのアプローチになったのではないだろうか。


 

今回のイベントにはファミリー層も多く、場内に設置されたテーブルやベンチでフードや温かい飲み物、お菓子を囲みながら談笑する光景をたくさん見かけた。厳しいルール設定をしなくとも、トラブルが起きることはなく、みんなが自由に楽しんでいる雰囲気が印象的だった。
 

ラップサンドを販売してくれた『キッチンいどはど』。大人にも子どもにも人気で、「これ2個目!おかわりしたの!」という男の子も。



お客さんに話を聞いていると、出店しているお店の常連さんという方もいれば、誰も知らなかったけど楽しそうだから来てみたという方もいて、好みも目的もバラバラな人たちが入り混じっている雑多な雰囲気が、肩肘張らない居心地のよさを作り上げていたように感じる。

 

それは〝誰の場所でもない〟という空き地が持つ特性と絶妙にリンクしていて、今の状態こそがこの場所のあるべき姿のようにも思えた。


 

イベントというのは始まってしまうと本当にあっという間で、太陽が徐々に傾きだした15時に全ブースが店じまいとなった。

 

2日間を通して、久しぶりの再会があったり、友人に家族を紹介したり、初めましてで意気投合したりと、人と人が繋がっていく場面を数多く目にした。

 

そういう様子を見て、大黒通りで20年以上も商売を続けているという方が、「また大町でこんな光景が見れるとは思わなかった」と感慨深げに話していたのが強く印象に残っている。静かな空き地に700人ものお客さんが来場するという夢のような2日間だったが、これを日常にできる可能性を多くの人が感じたのではないだろうか。


 

大勢の人で賑わった空き地のゲートが再び単管パイプで閉じられると、まるで何事もなかったかのように辺りが静かになった。

 

何もなかった空き地にいろんな人たちが集まり、新たな賑わいが生まれる。

 

その光景は、街の明るい未来を予感させるものだった。「函館は何もない」なんて声も聞くが、楽しいことは作れる。そういう希望を、確かな手応えとして感じられるイベントだったと思う。

 
 

この場所では今後もイベントが企画されている。まずは12月18日(土)、19日(日)の2日間で『大町湯気市』の開催が決定。冬の空き地でおでんやスープなど、湯気が立ちこめる屋台を楽しむイベントになるそうだ。
 

 

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